キネマ旬報1位の話題の映画「スパイの妻」
映画(スパイの妻)
ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)受賞作で、A新聞の映画評でも蓮見重彦氏が傑作と絶賛した話題作です。
私も昨年の10月に観ましたが、なかなか感想文ができずにいました。それでも2020年キネマ旬報の邦画1位との記事で読み、改めて書いてみようと思いました。
書かなかったといより書けなかったというのが正直な所で、それだけ個人的には印象に残らなかったということかもしれません。恥ずかしながら黒沢清監督作品はあまり観ていませんし、作品への知識不足による理解不足なのかもしれません。
映画全編を通して一番印象に残っているのは、主演の蒼井優の演技力であり、存在感でした。貿易商を営む主人公の夫と、それを追跡する幼なじみの憲兵のとの3人の関係を中心に、戦中前夜の時代背景の元に物語は進行します。
こうした時代背景の中から、黒沢作品に特徴的な日常生活に潜む異常や狂気が徐々にあからさまになっていきます。こうしたスリリングな展開を経て、最後主人公が映るラストシーンがこの映画の終結であり、余韻を残すエンディングになっています。
ただ私が冒頭に書いた感想文がなかなか書けなかったのは、たまたまこの映画を観た前週に韓国映画の「82年生まれ、キム・ジヨン」を観て、そのラストがこの映画のラストとあまりに対照的であったのが、その理由かもしれません。
ラストなのでどちらの映画とも詳細を書くのは控えますが、この韓国映画の結末をどうなるのかと興味を持って観ていましたが、おそらく日本映画では予測できないようなラストであったと思います。
逆に「スパイの妻」のラストは先述した通りに明確な結論を出すのではなく、余韻を残す手法であり、私も長く日本映画を観てきましたが、こうした手法はいわば伝統のような気がします。
そこで思い出したのが、かつて学生時代によく観ていたATG作品の中で異彩を放った大森一樹監督の「ヒポクラテスたち」の乾いた(ドライな)感性、その後の周防正行監督の「ファンシイダンス」や「シコふんじゃった」のユーモア性などは、従来の日本映画伝統の踏襲の域を超えた新たな作品であると感じました。
この作品自体の評価をせずに他作品との比較は、黒沢作品ファンからはお叱りを受けることと重々承知の上、あくまでも私見の或ということで述べさせて頂きました。
どちらのラストが良いかはそれぞれの価値観や手法により異なるので、一概には言えませんし、映画の趣向が違うかもしれませんが、上記の「82年生まれ~」の感想文の結論で、こうしたエンディングにする韓国映画の“したたかさ”を見る思いだったと書いた記憶があります。(写真は公式サイトより引用しました)