新たな切り口の脳トレ本「論理的思考力を鍛える33の思考実験」
本(論理的思考力を鍛える33の思考実験)
新聞広告で見つけ、この手の「頭の体操」に類する本は好きなので、買って読んでみました。思考実験とは「理科の実験のように道具などを必要とせずに、ある特定の条件の下で考えを深め、頭の中で推論を重ねながら自分なりの結論を導き出していく、思考による実験」というものです。
筆者の北村良子さんはパズル作家で、こういう種類の本にありがちな研究者ではないパズル作家のユニークな視点から本書を書いています。
本の構成は「第1章 倫理観を揺さぶる思考実験」「第2章 矛盾が絡みつくパラドックス」「第3章 数字と現実の不一致を味わう思考実験」「第4章 不条理な世の中を生き抜くための思考実験」となっており、全部で33の思考実験が出題されています。
新聞広告にもあった第1章の例題「暴走トロッコと作業員」は、暴走するトロッコの線路の向こうに5人いて、分岐する線路には1人がいる。この条件で回答者がその手前の切り替えスイッチを、どう動かすかを考えるものです。
本文にも書いてあるように多くの回答は、5人を助けて1人が犠牲になるというものですが、ただその条件を変えることで、回答が様々に変化していきます。つまりは単純に5>1の関係だけでない逆の場合もあり得る訳で、それぞれの人々が持つ倫理観が影響するという結論を導いています。
第2章の「アキレスと亀」は、速いアキレスがのろまな亀に永遠に追いつかないという論理も矛盾を突くものですし、第3章の「カードの表と裏」はクイズっぽい内容なのですが、クイズが時に直感やひらめきが重要なのと違い、思考実験らしく考え方をより深堀りさせる内容になっています。また「あり得ない計算式」では、実際の計算と数学の世界での計算との違いを述べています。
秀逸だと思ったのは、第4章の「生きるための答え」の回答で、死刑になった男に対して王様が「死に方を決めさせてやろう。お前の選んだ方法は確実に実行する。変更は許さない」といい、男は考えた末に王様に答えを告げると、男を許し釈放したとのことです。
答えは老衰!なるほど、これならば人生を全うして死ねるという訳ですね。
最後33問目の「コンピュータが支配する世界」では、コンピュータが管理する世界で人間の可能性までもがコンピュータに制御されるブラックユーモアな世界を描いています。
従来の「頭の体操」本とは違う切り口のこの本、クイズ本とも違うまさにじっくりと思考ができて、脳のトレーニングにもなったような気がします。