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容疑者の女性に溺れた刑事の悲恋物語「別れる決心」
映画(別れる決心)(半ばネタバレありです)
カンヌ国際映画祭監督賞を受賞した話題の韓国映画です。最近の韓国映画には「パラサイト半地下の家族」や「ベイビー・ブローカー」など、明確なテーマを持った力作が多いですが、本作品もそれらに劣らない秀作になっていると思います。
物語は、夫殺しの容疑者である中国出身の女性と、その事件を担当した最年少でチーム長に昇進したエリート刑事との2人の関係を描いています。
プサンの警察署に単身赴任している刑事は、週末婚での妻との再会を楽しみにしていますが、この事件をきっかけに事件当初から変貌していく容疑者の女性に対する感情を丹念に描いています。
女性の自宅近くに車を停めて1晩中張り込みをし、そのまま車中で眠ってしまいますが、朝容疑者の女性がきて「グッドモーニング」と告げていきます。こうしたシーンをなど、刑事の中に渦巻く推理や想像は、アリバイの立証や逆に犯罪の可能性など、映画特有の映像を駆使して、現実と妄想の境界線を越えながら様々なシーンが可視化され再現されていきます。
それは犯罪の推理だけでなく、容疑者の女性に対する妄想であり、さらにはそれが願望へと発展していくようでもあります。「女に溺れて」「すべてを潰す」「崩壊」「崩れていく」などの言葉が登場しますが、容疑者と刑事、さらに女と男といったジレンマを抱えながら、事件と2人の関係は迷走しながら展開していきます。
どういう結末になるのか想像できない中で、以前観た「82年生まれ、キム・ジヨン」と同時期に公開された黒沢清監督の「スパイの妻」との比較を思い出してしまいました。
日本映画が明確な結末を出さずにフェードアウトして終わるのが伝統の美学であるとすれば、この「~キム・ジヨン」は対照的に明快な結論を出していました。
波が満ち寄せる海岸でのラストシーンは衝撃的ですが、その過程はかなり不明確で、サスペンスの要素も除いても、敢えて言えばフランスの心理小説にも通じる所があったと思います。韓国映画も新たなステップを模索しながら進化していると感じた映画でした。
本作品ではスマホが事件解決の重要な証拠品として登場しますが、韓国は日本以上のネット社会であり、スマホでのチャットの会話が事件解明のための重要なツールとして登場しています。
(写真は公式サイトより引用しました。なお文中に引用した言葉は、上映中の記憶を元にしたもので正確ではないかもしれません。)
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