めずらしく不機嫌。れなちゃんの不満って、いったいなに?
※ノリユキ先生のつづきはちょっと待ってくださいねー。
「あーあー。わたしたちって、なんて古いんだろうー。」
と、れなが大きな声で言って、ためいきをつく。
さくらこ「古いって、何がー?」
りこ「れなちゃんが古いとかって、言うとは思わなかったあー!」
ゆな「ほんとほんと~!」
「だってね、あそことあそことあそこにいる子、なんて名前?」
れなが3人に視線を向けた。
ゆな「ああー。」
さくらこ「りんちゃん、りんかちゃんとかの、『りん組』ね。」
れな「あっちの男子は、2人がみなと、3人がひなた。めいじやすだせいめいの赤ちゃんのなまえトップたちが、たくさんいるじゃない?」
だから……れななんて名前は古いのよ。ほんとは今どき、こんな名前の子はいないのよ。もちろん、「きゅうじ」や「しゅうと」もね……と、れながブツブツ言っている。
さくらこ「でもさあ。今、ランキングトップってことは、みなととかひなたって男子の名前は、むかしで言う、ひろしとかたかしとかじゃないの?」
りこ「そうよそうよ。女子の1位のヒナ、ヒナタ、ヒヨリもクラスに一人ずついるけど、60年も立ったら、むかしで言うヨネとかトメと同じってことよ~ふふふ。」
れなが、りこを見てガタンと立ち上がった。クラスのみんなが、ギョッとしている。
「りこ~! りこって名前は、なんやかんやで平成元年も9位で、なんか10位前後をいつもちょろちょろしているじゃないのお~!」
そういって、れなは泣きそうな顔になった。
みんな、驚いた。れなが泣くところを、みたことがない。ちょっと見てみたい……。でも、その後がなんだか、怖い。なんてものすごい負けず嫌いなんだろう。
すると、
「バカなことで悩んでんじゃねーよ!」
と声がした。
一瞬でクラスが、シーンとした。この声は……、イチロウくん。
「そうだよおれだよ。親がイチロー好きだからって、いまどき、イチロウだよ? しかも、おれ、次男だし。」
ええー? 長男じゃなかったの? とみんなびっくりしている。
「お父さんが野球好きで、5歳上のお兄ちゃんのときは松井秀喜が好きだから、ヒデキ。でも、イチロウよりよくね? いまどき、太郎とか二郎とかの『ロウ』がつく名前なんてさあ。明治時代じゃないっつーの!」
そのときである。
廊下の方から、妙な音がする。
ブフ、ブフフ、ゴゴ、ブブブ……。
なんだなんだ? と、廊下を見ると、変な音を出しながら泣いていたのは、リンカン先生だった。
「イチロウくん、れなちゃん、自分の名前が古いとか、あっちが新しいとか……。そんなことをどうこういうなんて、名前をつけてくれたお父さん、お母さんに失礼です!」
ざわざわする、2年1組。なんだか、めずらしくリンカン先生がまともなことを言っている。でも、その気迫で、笑うものなどいなかった。
「今日の宿題にします。保護者の皆さんに、『どうして自分の名前を●●とつけたのか?』または、『自分の名前について、こう思う』という作文を400字1枚、書いてきてください。」
説明しよう。
今は、いろんな家庭の、いろんな子どもがいる。
自分の名前の由来を聞けない子どもも、いっぱいいる。
だからリンカン先生は、二択で出したのだ。作文のお題を。
次の日。
「みんな、よく宿題を考えてきたね。じゃあ発表してもらおうかな?」
と、リンカン先生。なんだか、とっても先生らしく見える。あ、先生だった。
「ぼくのお父さんお母さんは、プロやきゅうが大すきです。だから男の子が生まれたら、『きゅうじ』とつけようと決めていたそうです。なぜかというと、やきゅうをやってほしかったからだそうです。だからぼくはいま、たのしくやきゅうをしています。ちなみに女の子だったら愛にして、卓球をやらせる予定だったらしいです。 きゅうじ」
「あお、っていう名前は、めいじやすだせいめいのランキングで一いだったなんて、はじめてしりました。ぼくは、けっこうショックでした。よくある、はやっているなまえをつけたのかとおもったからです。でも、パパとママにきいたら、『うみのようにひろいこころをもった人になってほしいからあお、ってつけたんだよ』っていわれました。ちょっとうれしかったです。 あお」
「考えてみたら、れいわのじだいに、子がつくなまえ、しかも4文字のなまえの子なんて、ほかにあったことはありません。でも、わたしは、『ほかにない名前』というのが、とくべつなかんじがして、もともとすきでした。さくらがぱーっときれいにさいた日に生まれたから、さくらこ、にしたそうです。 さくらこ」
うんうん、と頷きながら聞いている、リンカン先生。そして、れなの番が来た。
「パパとママに、『なんでこんな、ふるいなまえにしたの?』 とききました。パパとママは、ものすごくびっくりしていました。」
ごくり。クラス中が、れなの作文の先を聞くために、どきどきしている。
「みょうじが白川。ならばなまえをくふうして、ゴージャスに、大物なかんじのなまえにしよう、でも、かわいくて女らしいなまえにしよう、と、ふたりで1か月もかんがえてきめたのが、『れな』だったそうです。」
怒っているのか、納得しているのかわからない。もう一度、クラス中がごくりと息を呑んだ。
「じつはわたし、『しらかわれな』って名前、だいすきだったの。 めいじやすだせいめいのランキングになかったから、ちょっとすねていただけで……。」
クラス全員「だけで?」
クラスのみんなは、ドキドキがMAXだ。
「サイッコーな、なまえだと思います。 れな」
クラス中から拍手の嵐が巻き起こった。
みんなも、「しらかわれな」って、いい名前だと思っていたのだ。
照れくさそうに、みんなに会釈して席に座る、れな。リンカン先生が言う。
「みなさん、自分の名前には、保護者の方の思いが詰まっているんです。どんな名前でも、『イヤ』なのはいいけど、嫌いにはならないでほしいですね。」
重ね重ね言うが、今日のリンカン先生は、なんだか教師みたいだ。あ、教師だった。
「そうだよなー。きらいではないんだよなー。みんなにあのイチロー? とかいわれるのがいやなだけで。」
と、イチロウくんもつぶやいている。
れな「あー、今日はなんだか、リンカン先生に一本とられちゃったきぶん。リン組とかあおとか、みなとに、謝ってくるねー!」
自分の名前が好き。それって、とっても素敵なこと。
れなちゃんが大きくなって大物になったら、きっと日本中の親が、女の子に「れな」って名前をつけるだろう。
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