女王様とわたしと貞操の危機
20代半ばのころ、仲のいい友達が外国人(白人)と付き合っていて、その友達の家で飲み会があるからおいでよ、と誘われた。
その友だちの家というのが、どえらいところにあった。
表参道の駅から徒歩3分。
こんなところに、外人向け? 広いリビングに、ほか何室もあるような部屋。家賃はいくらするの。え? 社宅? すご。
「彼とは、クラースが違うからね。」
と友だちの彼が言っていた。
そのときはよくわかんなかったけど、階級ということかな? と後で思った。
全然知らない人たちが10人前後、来ていた。
「チャカティと呼んでくれ。」
という、純日本人男子が仕切るグループに、なんとなく混ざってみた。
どうやら、世界一周かなんかしてきて、ブロークンイングリッシュなら話せて、インドかどっかの何かの名前がチャカティだったらしい。
「あの子さ、女王様なんだよ。」
と、チャカティが言う。
指さした子は、後ろ姿しか覚えていない。二十代半ばくらいの、黒髪が肩あたりまでの長さの子だった。
別に、ボンテージが似合いそうなわけでもない、普通の子に見えた。
「いろんな男の家を泊まり歩いてるんだよね。今日はあいつ。」
おだやかそうな男性がいた。女王様の言動をひやひやしながら見ている、という感じだ。
ちらっと、女王様のささやきが耳に入った。
「女王様ならさあ、ヤラれないからいいんだよねー。」
ああ、そういうメリットもあるのか。
じゃああの人はMなわけね。
ヤラれるんじゃなくて、なんかヤッてあげんのね。
「だから、友達もけっこう、女王様やってるよー。」
ふーん。家出娘なのかしらね? わたしはまったく興味ないわ。
女王様とは、特に話す機会はなかった。
「このメンバーで飲むなんて、もう二度とないんだろうなあー。」
チャカティが、しみじみ言う。
そうね。あんまり楽しくないし、もう来ないと思うわ。
ふと、気づく。
あれ、女王様たちがいない。
友達カップルも、もう消えてる。
チャカティと、家主の白人男性、あと数人じゃない。
ヤバい予感。
「わたしも帰る。」
と言ったら、家主の外国人が、下手な日本語と英語で、
「ちょっと待って。見せたいものがあるから。」
と言う。
えー何よ何よ。面倒くさい。
と、
扉を開いたら、ベッドルームだった。
おいおい、友達! わたしはお土産にされたのかい?
日本語で、
「そんなつもりはないですからー!!!!!」
と叫び、暴れ、ほうほうのていで部屋を出た。
クラースの違う、アッパーな白人。
無茶なことはしなかった。
ああー、怖!
外国人は趣味じゃないのよ! 日本人でも同じように逃げるけどね!
チャカティも、止めやしない。
いや、家主に協力してたら大変なことになっていたわ。
それから、知らない人ばかりのホームパーティには、極力行かないことにした。
あれ。
女王様の話のはずが、自分の貞操、守った話になっているわ。
まいっか。