トムソンベッド
明るくも暗くもない、鈍色の光が部屋に満ちていた。寝室のカーテンは朝7時に自動で開く。部屋が明るかったら7時以降で、暗かったら7時前。毎朝、瞼を開いた時にそんな感じで時間を把握していたけれど、今朝は難しかった。今日の空は朝からどんよりとした鈍色が一面に広がっているせいで、寝室の中まで曇り空が入ってきているせいだった。
今日は午後から予定があって、お昼過ぎに家を出た。私は暇さえあればラジオを聴いていて、ラジオは食事や睡眠と同じくらい生活に欠かせないもの。気がつけば人生の中でラジオを聴いていない期間のほうが短いくらい。アルピーDCGをタイムフリーで聴きながら電車に揺られていたのだけれど、オープニングトークでミニ四駆やストーンズvsクリプトンの話をしていて胸が熱くなった。
占い師に「感謝さえ忘れなければ未来永劫番組は続く」と言われた話がお二人から出てきた時、実家の自分の部屋に一気に引き戻された。カーテンを閉め切ったジメジメとした部屋の中でパソコンに向かって脚本を書いていた記憶が弾けて、タバコの煙でうっすら白くなっている陰鬱な空気が胸に入ってきた気すらした。
過去に戻って人生をやり直したいとは全く思わないけど、お味噌汁ごくごくマン、ジーパン飯、宇宙くんとかを、あの頃に戻ってもう一度リアルタイムで放送を聴けるんだったら心が揺らぐ。
乗り換えなし、ラジオと共に電車に揺られること1時間。今日のお出かけのメインイベントは、ゴッドハンドによるカイロプラティクス。体の歪みを様々な不調の原因と捉え、背骨や骨盤を矯正することによって正していくアプローチのこと。繁華街を抜けた先の住宅街を歩いていくと見えてくる。そこは完全紹介制の隠れ家的な雰囲気で、私の場合はパートナーが子供の頃から家族で通っていて一緒に行く様になった。
カイロプラティクス、ゴッドハンド、身体の歪みを矯正。初めて聴いた時はスピリチュアルの一種で呪いをかけられると思っていて、現代では感じることのできない体験に好奇心と恐怖で胸がいっぱいだった。もちろん実際に行ってみるとオカルトなんて一切なかった。
内容自体はマッサージの延長線上なのだが、めちゃくちゃ痛い。人生で感じた痛みの中で3本の指に入るくらい辛くて、強い力で押されているわけでもないのにいつも我慢できなくて呻き声が出てしまう。マッサージで体をほぐした後にトムソンベッドという、歯医者さんの椅子と手術台の間みたいな機械で体の歪みを治していく。ベッドに横になると、いつもダヴィンチのウィトルウィウス的人体図を思い浮かべてしまう。
不思議なことにトムソンベッドで歪みを治してもらった後に同じところを押されると、全く痛くなくて感動。この効き目だけ非科学的でオカルトを感じてしまう。
今日の晩ご飯は白米、鶏もも肉と夏野菜の和風トマト煮、お味噌汁。
トマト煮は絶大な信頼をおく野永シェフのレシピ。野菜の旨み、鶏肉の油とトマトのコクが混ざり合っていて、繊細なのに力強い味わいを感じられる。クラシルの動画内でもおっしゃっていたけれど、塩コショウ一切なしでこの味が出ているのは凄すぎる。料理は科学とか魔法とかいうけれど、この料理を聞くと納得させられる。自分で料理をするメリットは食べたいものを食べたいだけ作れることだなと改めて実感。晩ご飯を食べたばっかりなのに頭の中は明日の晩ご飯のことでいっぱいだ。