書けなくなって気づいたこと
結婚する前一人暮らしをしていた。一人の時間がないとしんどい私には、一人暮らしが合っていた。それに、一人の空間がないと絵が書けない。書いてる最中に誰かに話しかけられるとダメで、周りの話し声も耳に障ってしまい集中できない。
デザインの専門学校の課題も学校ではやらず(内容にもよるが)、ほとんど家に持ち帰ってやっていた。夜中に一人の空間で机に向かっていた。
専門学校の自由課題で絵本を作った。大人向けの絵本だ。文字が一切ない絵だけの本。周りの反応は良かった。「これ欲しい」と言ってくれる人、「あの絵本とても印象的だった」と言ってくれる人。嬉しかった。
それから数年後に私は結婚して子供を産んだ。
毎日が慣れない家事と育児。料理一品作るのも、お弁当作るのも、片付けもなんでも時間がかかった。毎日が子供中心のペース。マイペースな私だが、マイペースには生活できない。その生活に追いつくよう必死だった。
もちろん絵を書く時間など取れなかった。いつも自分に余裕がない。子供が寝たあとにゆっくり書こうと思ってても、寝かしつけのときに自分も一緒に寝てしまう。疲れてて夜中も起きれない。毎日をこなすことで精一杯。
「また今日も書けなかった」
夜にゆっくりじゃなくて、子供がお昼寝してる時に書こう。そう思ってるときに限って昼寝から早く起きてくる。「ああ…もう起きてしまった…」中断だ。
イライラすることもあった。これはよくないと思った。だって、子供は何も悪くないのに、早く起きてきたことにイライラしてしまってはかわいそうだ。そもそも、イライラしているのは子供に対してではなく、絵をゆっくり書けなかったことだ。私の問題。子供は関係ない。
書く時間が取れなくてイライラしてしまうくらいなら、書く時間を確保しようとすることすらやめようと思ってしまった。
子供が幼稚園に行くようになって、昼間の一人の時間に「さあ書くぞ」と机に向かっても書けなかった。
何を書いていいのか全くわからなくなってしまった。表現したいはずなのに何も書けない。まず、「書こう」としてる。
何かを書いても、どこかぎこちなさを感じる線だ。緊張している、かまえている。
数年書けなくなってしまった。適当に書いて「ハイ書けました」といえば書けたことになるかもしれないが、私が思うものは書けなくなってしまった。
いったい何を書きたいんだ?
何を表現したいんだ?
その問いがずーっと頭の中をぐるぐるしていた。書いても書いても下手くそだ。「書こう」としてる絵だ、つまらない。
学生の時に作った、みんなが喜んでくれたあの絵本のような絵が書けない。
「みんなが喜んでくれた…」
あの絵本はすぐに出来た。悩まずにサーっと進んでいったものだ。「こーゆうもの」というイメージを割とスムーズに形に出来た。
誰の評価も気にしないで、好き勝手に作ったものが喜んでもらえた。なおさら嬉しかった。
あの絵本のような絵を書こうとするようになっていた。
でも、書いても書いても違う、こうじゃない。焦る。
自分は何も出来ないと思うようになってしまった。
数年そんなことをやってて
「あの時のような絵はもう書けないんだ」ということにやっと気がづいた。
あれは、あの時にしか書けなかったものだ。
あの時の、あの感情を紙に落としてただけ。だからあの時にしか書けなかった。
結婚出産して環境が変わり、私自身も変わったのに、あの時のような絵をいま、書けるわけがないのだ。過去の自分に戻ろうと間違った頑張りをしていた。私は以前の私ではないし、変化し、進んでいるんだ。
それに、うまく書こうとしてる自分もいた。うまく書こうとしてる絵は自分でもわかる。書きながらどこかで「うまく書こう」としてるから、それが絵に出てる。
「うまく書こうとするなら書くことに意味がない」と思った。
私がやりたいのはうまく書こうとすることではない。
そもそも…うまいってなんだ?何に対してだ?
うまいもの、とやらを書きたいのか?違うだろ。
今の感情や、自分の中にあるものを外に出したいんだ。ただそれだけだろ。
「あの時のように書いてた私」を頭の中で切り離した。
あれはあれ。今は今。と分けた。
そしたら楽になった。「あの時みたいに…」を手放した。
今にしか書けないものがあるはず。今だから書きたいことがあるはず。
今の生活。今の感情。自分の中にあるもの。そこにフォーカスしていこうと思った。
過去への執着を手放したら楽になったし、今にしか出来ないことがあるって思ったら、過去よりも今を感じれるようになった。目の前のものをちゃんと見ようと思うようになった。
今も100%満足するものは書けてないけれど、それでもいいんだと思えるようになった。
デッサンが正確な絵が書きたいわけじゃない。
自分の気持ちがそのまんま乗っかってるものが書けたらいいんだ。私の目指しているところはそこなんだな。
それがまた難しくて、勝手にもがいてて、でも、生きてる感じがするんだよね。
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