実現するのか?日本製鉄のUSスチール買収(Morning satellite Mar,2024)
日本製鉄が目指す、アメリカの鉄鋼大手であるUSスチールの買収についてバイデン大統領は反対を表明した点について、解説する。
1901年に鉄鋼王と知られる実業家アンドリュー・カーネギーなどが関わり設立した。その後、USスチール本社があるペンシルバニア州ピッツバーグ市は生産地として栄え、アイアンシティ鉄の街と呼ばれるようになった。
しかし、現在は中学校や商店街の多くの店舗が閉鎖され、空き地やビルの廃墟となっている。かつては、生産量で世界一を誇ったUSスチールだが、その後は日本や外国勢との競争に敗れ、27位まで転落し、競争事業の縮小や解雇が進められ、工業地域は産業が衰退したラストベルト(錆びた地帯)の一部となった。
住民が強く希望する雇用維持について、日本製鉄はUSスチール買収後、レイオフはしないとしているが、全米鉄鋼労働組合USWは、強く反対している。
理由として、日本製鉄はUSWとUSスチールの労働協約を承継するとしているが、2026年に現行の協約が失効した後、日本製鉄が誠実に労使交渉に臨まず、製鉄所の従業員を全員解雇、閉鎖するのでは?との疑念があるからだ。
USスチールの組合員は、労組との関係が良好なアメリカ同業他社による買収を希望している。理由としては、愛国心が強く、USスチールのような由緒ある企業はアメリカ資本が所有すべきだと。
興味深い要因もある。それは、USスチールの主要な生産施設は、ペンシルベニアやミシガンなど2024年大統領選挙で勝敗のカギを握る激戦州にある点だ。US Wに味方しなければ、500,000人以上の組合票を失うリスクもあり、大統領が反対を示した今、買収を完了できるのだろうか?
多くの専門家は、選挙イヤーでさえなければ買収は円滑に進んだだろうと指摘している。買収が実現するとすれば、2024年11月の大統領選で、バイデン大統領が勝利し、世間のUSスチールへの関心が薄れた後だろうと予想している。ただ、完了したとしても、日本企業にはアメリカでのビジネスについてはリスクが残り、対米投資について不安を与えかねない状況となる可能性がある。