Amazon薬配送サービス参入により、処方薬の受取り方にどんな変化が見られる?(日本経済新聞 柳瀬和央氏/Morning satellite Jul,2024 )
Amazonが処方薬の取扱を始め、ウエルシアなどと処方薬ネット販売を年内に開始するという点について解説する。
医師から貰った処方箋をアマゾンのアプリに登録すると、ウエルシアなどの調剤薬局チェーンがオンラインで服薬指導行い、患者は薬局に出向かずに処方薬を自宅などで受け取ることができるサービスである。Amazonが参入することで、医療機関や薬局のデジタル対応に大きな影響が与える可能性がある。
通常は、医師の処方箋にも基づき、調剤される処方薬を受け取るには、薬剤師から服薬指導を受けることが条件となる。つまり、病院での診察が終わった患者は処方箋を持って、近くの薬局に向かうというのが一般的な流れとなる。しかし、薬を受け取るまでに10分以上待たされると言うケースも少なくない。
もし、アマゾンのサービスを利用した場合、診察後は薬局に寄らずに帰宅し、薬は後で配送してもらうという流れとなる。具体的な流れとしては、患者は医療機関の医療機関の窓口で電子処方箋を貰い、そこに記載された処方内容と引き換え番号をスマホで撮影し、Amazonのアプリ内で好きな薬局を選択し、服薬指導を予約、開始時間になると薬剤師の服薬指導(ビデオ通話)を受ける流れとなる。それが終わると、指定した場所に薬が配送される。ちなみに、薬局の店頭で薬を受け取ることも可能である。
また、オンライン診療と組み合わせることで、自宅に居ながら、スマホで診察を受け、薬は配送してもらうと言うデジタル完結型の医療も可能となる。
これが出来ることで、以下のケースで大いに役立つと考えられる。
⑴ 小さなお子さんが2人いて、上の子が体調崩して、医師の診察を受けたいが、院内での感染症が心配なので、できれば下の子を連れて病院や薬局を行かせたくない。
⑵ 花粉症が辛く、花粉が多い外を出歩きたくない
ただし、オンラインの弱点もある。
配送と言うプロセスが加わることで、診察直後に薬局店頭に出向く場合に比べ、薬を手にするまでの時間を要する点である。
Amazonのサービスでは、薬局は最短で当日中に薬を配送すると言うことになっているが、熱や痛みがあったりする患者は診察後すぐに薬が欲しいため、こういった急性疾患の場合、オンラインよりも対面で薬を受け取る優位性は崩れないだろう。
一方で、高血圧の様な慢性的な疾患で、定期的に薬をもらう場合は、オンラインに優位性が出てくる可能性が高い。特に複数の医療機関および薬剤を同時服薬している高齢者へのニーズは高いと考えられる。特に今後は、緊急性が高いのは店頭、低いのはオンラインという時代に変化していくだろう。
とはいえ、このサービスが拡大するには、医療機関側の取り組みが重要となる。理由として、まだ電子処方箋が対応可能な医療機関が少ない点である。行政に利用申請を入れた病院は全体の20%、診療所では25%に留まっており、実際に開始したのは、それぞれ3%に満たない状況である。
理由としては、医療機関側が、患者ニーズは少ないだろうと考え、電子処方箋サービスの導入を見送っていることも考えられる。今後、Amazonが参入することで、電子処方箋使ってみようという患者さんが増えると、医療機関側が背中を押される効果は考えられる。
こういったオンライン服薬指導は、薬局が取り組むべきデジタル対応の第一歩に過ぎない。このサービスの取り扱いが将来的に増えると、薬局で調剤して薬を発送する仕組みから、倉庫のような大きな拠点に薬を在庫集約して、AIを導入した機械を活用し、効率的に調剤して患者さんに直接配送すると言う形となる可能性が高い。ただ、日本は規制が厳しいため、乗り越えなければならない課題は多いだろう。