羽生善治の『決断力』を読んでみた
将棋プロである羽生善治氏の著書は数々ありますが、名著として紹介されているのが、この「決断力」です。将棋という勝負の世界に身を投じ、神経をすり減らしながら日々を送る羽生氏が、いかにして決断力を培っているのか。その視点を学ぶことができる一冊です。
将棋の事を知らない人でも、羽生善治の名前は知っているという人は数多くいると思います。今や国民的な有名人の一人である、羽生善治プロの勝負勘を垣間見ることができます。
■本書の紹介
決断力
羽生善治 著
勝機は誰にも必ず訪れる
羽生氏は、勝負事においてもっとも重要なものは『精神力』であると綴っています。土壇場で追い込まれているときに、心が折れてしまうと選択肢を誤りそのまま敗北を喫することになる、というのは、将棋以外の世界においても同様です。逆に言えば、心さえ折れなければ、勝機は必ずあるという事です。
では、どうすれば気持ちを強く持てるかというと、過去の経験値はもちろんですが、自ら知らない事へチャレンジしていくという「勇気」が必要不可欠だと、羽生氏は答えます。何事もチャレンジし、自ら新しい世界を経験する。それが、時としてネガティブな結果になったとしても、最終的な勝機に近づく、一番の近道です。
経験には「いい結果」と「悪い結果」がある
羽生氏がいつもベストな選択をしているかというと決してそうではないと答えます。色々考えすぎてしまったり、一番良い方法にたどり着くのに時間がかかってしまったりと、ネガティブな選択を選んでしまうこともあるからです。
そういったマイナス面にも打ち勝てる理性、自分自身をコントロールする力を同時に成長させていくことが、悪い結果をいい結果に繋げるためには重要です。
守ろう、守ろうとすると後ろ向きになる
勝負の世界では「これでよし」と消極的な姿勢になることが最も怖いと羽生氏は語ります。常に上を目指さないと、そこで成長はストップし、後退が始まってしまうからです。
誰でも、どんな場面でも、できれば手堅くいきたいし、リスクは少ないほうが良いと考えます。しかし、同じ形を何度も繰り返していくと、結局スタイルを狭い世界に押し込めてしまい、息苦しさを感じてしまいます。守ろう、守ろうとすると後ろ向きになる。守りたければ攻めなければならないと、羽生氏は語っています。
セオリーを捨て、新しいひらめきを手に入れる
羽生氏は、定石と呼ばれるセオリーのような手順が将棋にはあると本書で語っています。将棋に限らず、どんな世界、どんなビジネスにおいても様々な工程の中でセオリーやテンプレートと呼ばれるものはあるはずです。
しかし、そこから現状とは違う結果を作りだしていくためには、やはり既存の考えや枠組みを捨て、「新しいひらめき」が必要になります。既存の常識を疑い、新しい考え方やアイデアを生み出していくことが、どんな世界においても必要不可欠なのです。それまで培った過去の経験を基に、『新たなひらめき』を生み出すことが、自分の可能性を広げる第一歩です。
直感を信じる。あなた直観の七割は正しい
羽生氏は、ひらめき、直感と呼ばれるものの七割は正しいということをいいます。直感が正しかったかどうかというのは、結果でしか確認ができません。
直観力はそれまで色々経験し、培ってきたことが、脳の無意識の領域に詰まっており、それが直観として浮かび上がってきます。その直感を『ひらめき』とするのであれば、直観の七割が正しいものであると考えられます。
前向きに勇気を持って取り組んでいくこと、これこそがひらめいた内容を成功として結果に結び付けていくための秘訣なのだということが本著からは読み解けます。
決断は怖くても前に進もうという勇気が試される
物事を進めようとするときに、「まだその時期じゃない」「環境が整っていない」とリスクばかり強調する人がいるが、環境が整っていないことは、逆説的に言えば、非常に良い環境だといえます。
リスクの大きさはその価値を示しているのだと思えば、それだけやりがいが大きいとも言えるからです。決断をするときのよりどころは、自分の中にあると羽生氏は語ります。『何事でも決断し、挑戦してみないと、結果がどうなるかは分からない』そう考えると、自分が挑戦できるのか?チャレンジできるのか?という勇気が、決断の中ではもっとも重要だと言えるのです。
決断とリスクはワンセットである
勝負には通らなければならない道が存在すると羽生氏は語ります。リスクを前に怖気づかないことが必要です。いろいろな理由をつけて逃げ出したくなる、怖いから腰が引けてしまうという思考は誰しもあるものの、勝負する以上、どこからでそういう場面と向き合い、決断を迫られることになります。
羽生氏はそういうときに、「あとはなるようになれ」という意識で将棋を指しているとのことです。決断とリスクはワンセットであり、リスクを避けていては、次のステップにもならず、最終的には大きなリスクになります。積極的にリスクを負うことは未来のリスクを最小限にすると、いつも自分に言い聞かせているということです。
勝負に生かす「集中力」
集中力というものは、将棋界以外でも勝負の世界においては必須の力です。自分の力を100%発揮するためには、深い集中力が求められます。その集中力は、海に深く潜るステップと同様に得ることができるといいます。本来人間の身体は深くまで海に潜ることを想定されていません。
しかし、人間の力はすごいもので、生身でも何十メートルも深く潜ることが可能な人もいます。一気に深い集中力に到達するのは難しくとも、ゆっくりと深く深く潜っていくことで、集中力を深めていくことは誰でも可能です。
集中できる環境をつくる
羽生氏は、ここぞいう場面で集中できるかが、勝負の行く末を左右すると語っています。決まりきった局面では、必ずしも加古の定跡どおりの局面ではありません。そんな中で新たな展開に持っていくためには、集中し、次の一手を考える必要があります。
集中力は、簡単にギアチェンジができるものではありません。流れが自分のほうにない場合など、どうしたらいいだろうと思い悩んだり、前にしたミスを引きずって「ここで集中」という場面でも乗り切れないことはあります。
羽生氏の場合は、タイトル戦の前に一時間考えたら、十分間休みなど、そのペースにメリハリをつけるなど、工夫をこらしているそうです。
頭の中に空白を作ることで余裕が生まれる
羽生氏は、集中力を高めるためには、頭の中に空白を作ることも重要だと言います。頭をフルパワーで稼働してしまうと、思考の『余白』がなくなり、現在の思考を整理することができません。
余白をもってゆっくりと、呼吸を整えることで集中して物事に取り組むことができるのです。
「選ぶ」情報、「捨てる」情報
現代社会は情報過剰時代といわれます。情報を取捨選択することは日々呼吸のように行われており、その情報の量と質によって、ビジネスの成否が決まると言っても過言ではありません。
しかし、情報を数多く選べばいいのか、というとそういうことではありません。どちらかといえば、多くの情報から、「捨てる」情報を決めていくプロセスの方が重要です。自分はこの情報は不要だ、と決断する能力が求められます。現代ビジネスにおいては「やらないことを決める」というセオリーにつながります。
才能とは、継続できる情熱である
ものごとを継続するために必要なこととは何でしょうか。ここで参考になるのは、子どもはなぜ何かに夢中になることができるのか、という視点です。子どもは、何かが「できた!」という喜びを糧に次のステップに進んでいきます。このできたという実感こそが物事を継続させるためのドライバーとなるのです。
我々のビジネスの世界においても、自らが仮説立てた施策が見事な成果を上げたときに、人は大きな充実感と達成感、そして次なる行動に対してのモチベーションが上がります。
才能とは、もともと与えられたものを指すというよりは、こうした経験を基にして、何かを継続することができる情熱であると羽生氏はいいます。
まとめ
本書を選定した理由は、自分はリーダーとして決断力や判断力にかけ、チームに迷いを生じさせてしまうケースが多いという悩みから、本書を手に取りました。
実際に、チームの中でみんなに意見を問い、答えに迷うケースが多くあります。その中で、色々と思考や優先すべきこと、チームの方向性を考えた時に、判断に迷うことが直近多くありました。
クライアントワークにおいて、決められないケースはあまりないのですが、『御社Webチームの事』においては、ああでもない、こうでもないと、悩んでしまっています。
自分が責任を持っているからこその悩みであることは違いないのですが、結局そういった自分の自信のなさや判断の遅れが、リソースがパンパンとなっている今の状況、制作に遅れがでる、クライアントとの関係性などで、問題として生じていると感じています。
色々と考えを巡らせると、結局のところリーダーとしての経験値が少ない。自分で決めた決断に対して、「万が一失敗したらどうしよう」というリスクが頭をよぎってしまうが故に、決断ができないということが分かりました。
本書を読んで、リーダーとして決断力を養うためには、とにかく自分で決断をし続けることしかないと感じました。もちろん、すべての決断を勝負だと思ってです。何としてでも、その決断を真実にする、答えにする。そこの迷いや戸惑いを捨てることで、結果が作れることを痛感しました。
『今リスクを取らなければ、将来的に取り返しがつかないリスクに見舞われる』そう考えると、どうあっても今決断をしていかなければならないのだと、感じました。
自分がリーダーとして至らない点は百も承知です。とにかく、色々な視点やリスクも考えた上で、自分が決断に責任を取れば、おのずと結果はついてくる。結果を自分で作り出せると思います。愚直に決断をどんどんしていきます。