『たった一人の分析から事業は成長する顧客起点マーケティング』を読んでみた
本書は、P&G出身、ロート製薬にて化粧水「肌ラボ」を本数ベースで日本No.1まで押しあげ、スマートニュースではiPhoneアプリランキング100位圏外から1年でNO.1を達成した西口一希氏が確立したフレームワークの理論と実践が集約された一冊となっています。
本のタイトルにもあるように、商品・サービスの大躍進は、たった一人の分析である「N1分析」を追及した結果です。ターゲットとすべき全顧客の可視化・定量化を可能にした、西口氏の経営・マーケティング理論は、どの商品・サービスを提供する人にとっても、目から鱗の情報となるはずです。
■書籍の紹介
たった一人の分析から事業は成長する顧客起点マーケティング
西口 一希 著
顧客から考える「N1分析」
たった一人の顧客の意見を聞くことを、「N1分析」と言います。そして、N1分析を通して見つかる、人の心を動かせる商品。サービスの魅力や訴求を「アイデア」と本書では紹介しています。
例えば、N100などの定量的なアンケート調査や統計分析は、商品を構築する上での仮設立ての絞り込みや、コンセプトを検証する目的であれば、有効と言えます。しかし、それだけでは、人の心に真に訴えかけ、行動を起こしてもらうには不十分です。アイデアまでたどり着いたとは言えないからです。
もちろん、無作為に選んだ一人に対してN1分析をおこなっても効果はありません。そのため、まずは顧客ピラミッド(5セグマップ)とブランド選好度の軸を加えて顧客全体を9つに分解する「9セグマップ」のフレームワークがあります。
顧客ピラミッド(5セグマップ)と9セグマップ
本書では図式化されていますが、テキストベースで記載すると以下になります。
【顧客ピラミッド(5セグマップ)】
■ロイヤル顧客(認知あり/購買頻度・高)
■一般顧客(認知あり/購買頻度・中~低)
■離反顧客(認知あり/購買経験あり/現在購買なし)
■認知・未購買顧客(認知あり/購買経験なし)
■未認知顧客(認知なし)
【9セグマップ】
①積極ロイヤル顧客
②消極ロイヤル顧客
③積極一般顧客
④消極一般顧客
⑤積極離反顧客
⑥消極離反顧客
⑦積極認知・未購入顧客
⑧消極認知・未購入顧客
⑨未認知顧客
顧客ピラミッドに関しては、ロイヤル顧客がもちろん、ピラミッドの頂点であり、購入頻度も高くファン化が進んだ状態だと言えます。そして、未認知顧客については、母数は多いもののまだ商品を知らない層の顧客です。
次に、9セグマップですが、顧客ピラミッドに対して、次回購入期待度をセグメントしたマップです。積極と消極顧客の違いは、次回購買意向が高いかどうか、そしてブランド選好が高いかどうかによって分けられます。
N1分析の手順
上記のフレームワークを活用して、特定の顧客セグメントから一人を抽出して「N1分析」をおこなっていきます。購買行動を左右する「言語化されていない深層心理のニーズ」を掴んで、アイデアを開発していきます。
①顧客ピラミッドの作成
└誰でもできる簡単な調査で顧客を5つのセグメントに分解
②セグメント分析
└行動データと心理データから書くセグメントの基本的な顧客特性を分析
③N1分析
└セグメントごとの「一人の顧客(N=1)」にインタビューして認知や購買のきっかけと深層心理を分解
④アイデア創出
└N1分析を元に、その顧客の行動と心理状態を変えるアイデアを考案
⑤アイデア検証
└アイデアをコンセプトに変換し、定量的調査でポテンシャル評価して実践し、顧客ピラミッドの動きを確認
現状のマーケターは顧客が求めていることよりも新しい手法に頼っている
新しいデジタルマーケティング手法が提唱されるにつれ、現状のマーケターは「顧客が何を求めているか」よりも新しい手法の理解と実行に時間をとられている状況があります。
本書で語られているのは、新しいデジタル技術や手法を実行したら効果が上がった、ABテストで費用対効果が良くなったというのは、あくまで戦術レベルでしかなく、戦略には到達していないということです。
部分最適化よりも、なぜ顧客が動いたのか?その行動変化の理由や心理変化まで到達できなければ、マーケターとしての役目を果たしているとは言えません。顧客の心理分解ができて初めて、大規模なマーケティング投資をおこない、スケールさせることができるのです。
アイデアは具体的なN1分析が創出される
アイデアを導き出すには、実在する一人の顧客を深掘りする「N1分析」が必要不可欠だと、上記でも紹介してきました。5つの顧客ピラミッド、9セグマップの中から、どのセグメントのN1顧客を深掘りするか、そして何を知りたいのかを設定することで、アイデアが明確化されます。
本書では、アイデアは一部のトップマーケターやクリエイターのひらめきでしか生み出せないものではないと語られています。手順を踏むことで必ず糸口をつかむことはできるのです。
もちろん、合理性や理論だけで創出できるものでもありません。心の動きや、深層心理の変化に左右することを念頭において、導き出す必要あがあります。
マーケティングにおけるアイデア4象限で定義される
本書で紹介されているアイデアは、「独自性」と「便益」の4象限で定義することができると語られています。独自性と便益を兼ね備えたアイデアが、マーケティング設計をおこなう上で、最も重要な要素なのです。
アイデア (独自性:ある/便益:ある)
ギミック (独自性:ある/便益:ない)
コモディティ(独自性:ない/便益:ある)
資源破壊 (独自性:ない/便益:ない)
独自性とは言葉の通り、他にはない特有の個性です。または見たことのない、訊いたことのない、触ったことのないなど五感で感知したことのない個性だと本書では説明されています。一方で便益とは、顧客にとって都合がよく利益があることを意味します。いわゆるベネフィットやメリットと言い換えることができます。
アイデアは独自性があり、便益がある状態を指し、ギミックは独自性はあるが顧客にとって便益がない状態を指します。コモディティは代替性がある商品やサービスとなるので、便益はあるが独自性はない状態です。
そして、資源破壊とは独自性もなく、便益もない状態ですが、これは開発にかかるコストや時間、コミュニケーションなど全てが無駄になっているということです。
プロダクトアイデアとコミュニケーションアイデア
上述まででアイデアを考え方を紹介してきましたが、ここからアイデアを更に深掘りしていきます。アイデアは大きく分けると以下2つに分類されます。
①商品やサービスそのものとなる「プロダクトアイデア」
②商品やサービスを対象顧客に認知してもらうための手段である「コミュニケーションアイデア」
それぞれ上述してきた独自性と便益の4象限を適用することができますが、この2つには①が主体で②が従属要素であると本書では語られています。
商品やサービスそのものに便益がなければ、いくらコミュニケーションプロダクトを追及しても短期的な売り上げで終わり、中長期の売上獲得をすることは不可能だからです。
プロダクトアイデアは独自の機能や特徴があり、顧客に対してメリットがある状態
プロダクトアイデアは対象顧客に対して、商品やサービスそのものに独自の機能や特徴があり、かつ具体的な便益がある状態です。本書では例として「iPhone」が取り上げられています。
携帯電話に音楽プレーヤーのiPod機能が備わり、インターネットに繋がった唯一の携帯電話=スマートフォンという強烈な独自性と便益を持って登場したのがiPhoneです。
いくら独自性があっても、便益がない商品は長続きしません。本書では便益がない商品として、星形のポテトチップスが紹介されています。興味本位で1回は購入したしても、次回購入に繋がるかといえば、難しいと言えます。
コミュニケーションアイデアは伝える手段としての独自性、そして楽しい、面白いなどの+要素
コミュニケーションアイデアは、プロダクトアイデアを対象顧客に伝え、購買行動を起こすためのコミュニケーションそのものの「アイデア」を意味します。
具体的にあげると、広告やリアルイベント、キャンペーンの仕組などにおけるクリエイティブの独自性を指します。広告でいえば、キャッチコピーやビジュアル、映像、ビジュアル、ストーリー、タレントに既視感がない独自性があるかどうかの視点が重要です。
また、便益という視点では、広告に接触すること自体が楽しい、面白い、心地よいという要素が必要です。本書では、ソフトバンクの「白戸家」のテレビCMが取り上げられています。
早期認知形成ができなければ類似商品とみなされる
マーケティングにおいて、プロダクトアイデアとコミュニケーションアイデアが重要だと紹介してきましたが、もう一つ重要な要素として、早期の認知形成があります。
その理由は、いくら良いプロダクトを開発できたとしても、追随するほかの商品やサービスにポジションを奪われ、ニッチな類似ブランドに成り下がる可能性があるからです。
例えば、メルカリもフリマアプリとしては後発サービスであり、肌ラボもヒアルロン酸系化粧品としては後発商品でした。しかし、早期の認知形成を獲得したことで、カテゴリーNO.1となったのです。
逆に言えば、優れたプロダクトアイデアがあったとしても、その認知形成が遅れている商品・サービスを見つけて、自社でプロダクト開発して一気に認知をとれば、カテゴリーを奪うことができるという見方もできます。
顧客視点では、本家本元かどうかは関係なく、認知をいち早く形成した競争勝者が本物として、カテゴリーを支配することができるということです。
一人ひとりをみることで購買行動を左右する根本的な理由が見えてくる
アイデアについて上述でまとめた上で、もう一度N1分析を深掘りしていきます。N1に絞り込むことは、統計データを元にマーケティング設計をしている企業からすると、やや戸惑いや躊躇するところがあります。
しかし、商品やサービスを提供するとして、1,000人を対象とする設計よりも、たった一人の個人へマーケティングを届けるほうが、対象顧客にとってのベネフィットに繋がる可能性は当然高くなります。
購買行動の背景には、必ず何らかのきっかけがあります。N1分析の要になるのは、一人を分析し、購買行動を左右している根本的な理由を見つけることです。その顧客が「購入しているブランドが自分にとって特別な便益をもたらしてくれる」と心理的に認識するに至ったきっかけです。
パレート分析は購買頻度と購買サイクルを加味して考える必要がある
パレートの法則については、これまで複数の書籍で解説され、重要だということは誰しも認知するところですが、本書ではピラミッド構造に対してパレート分析を当てはめています。
パレートの法則では、上位顧客20%が全体売上の80%を生み出しているという原理原則です。この法則は成り立たないという意見もありますが、カテゴリーの購買頻度を計算に入れ、購買サイクルを複数回カバーする中長期で見た場合は、20-80、30-70、10-90といった具合に、パレートの法則は成り立つと本書では語られています。
購買サイクルは商品やサービスによって異なります。例えば、自動車のように平均6-7年サイクルで買い替えるような高額商品であれば、10年以上の単位で算出しなければ、この法則は当てはまりません。
また、ブランドがまだ立ちあげ期、購入者数自体が少ない場合、急速に購買が発生したプロダクトは、正確に計測することができないのです。
下位70%-90%の顧客も中長期で見たら重視すべき層
上位10%-30%の顧客が売上の大半を占めるとしても、中長期で見た場合は下位層も決して無視すべきではありません。顧客は常に動いており、中長期でみるとロイヤル顧客に遷移する可能性もあれば、競合商品や代替品への移動もおこなうのです。
さらにロイヤル顧客といえど、中長期では一定数の割合で離反するということも念頭におかなければなりません。ロイヤル顧客と一般顧客、そして離反層などピラミッド構造におけるそれぞれのセグメントに対して、戦略をとっていく必要があるのです。
N1起点のカスタマージャーニーを作成する
N1に絞り込んだ上で、ロイヤル顧客のカスタマージャーニーを構築していきます。カスタマージャーニーマップを構築するには、インタビューが効果的だと本書では語られています。N=10人に対して、それぞれ個別にインタビューをおこなっていきます。
一人ずつ個別のカスタマージャーニーを時系列で書いて、顧客がいつ商品を認知し、初回購買行動をとり、ロイヤル顧客化したのかを記載していきます。
しかし、インタビューをおこなう上で、質問に対しての回答をそのまま広告で打ち出しても効果は見込めません。便益に繋がる独自性のある言葉に言い換えて訴求することで、初めて購買行動を促すことができます。
まとめ
本書を選定した理由はクライアントに深く入り込むことは成功体験を積み重ねたものの、結局マーケティングの知見を広げない限り、クライアントと一緒にビジネスを成功させることはできないと考えたからです。
今回、読書レポートとして取り上げたのは、本書の約30%ほどでそれだけでも、自分の中で言語化できていない箇所が複数ありました。知っていてもアウトプットができない状態です。
特にセールスファネルでピラミッド構造を考えることはあっても、それはあくまで「集客」におけるセグメントであり、「対顧客」のセグメントはまだまだ理解が甘いと感じる次第でした。
自分が携わるサービスにおいては、必ずしも「集客」に限られているわけではありません。マーケティングにおけるそれぞれの階層に対して、マーケティング設計を作る必要があります。
本書で紹介されていたN1分析の観点と、ロイヤル顧客のカスタマージャーニーマップの作成。既存ビジネスがあるクライアントには、そこを重点においたマーケティング提案を実施していきます。