スポーツチーム経営の問題は「コロナ禍」前から起っていた。(Off the pitch talk 第4回~6回まとめ)
*アセンダーズ(株)のWPPメンバーと始めたstand.fm番組、「Off the pitch talk」の要約・追記のコーナーです。
#4.全てを『コロナ禍』で片付けてはいけない
今年、多くの企業がコロナウイルスによる大打撃を受けました。
スポーツクラブも例外ではありません。
程度の差こそあれ、大半のクラブが赤字に陥ることが予想されていますし、場合によっては債務超過に近い状態になると噂されるところもあります。
一般の企業を見ていると、当然その影響は多大ですが、なんとか持ち直し始めている企業も多くみられるようになってきました。
なぜ、このような違いが出てくるのか。少し考えてみたいと思います。
まず、その前提として理解しておかねばならないのは、「そもそも経済危機はこれまでも定期的にやってきている」ということです。例えばバブル崩壊、リーマンショック、大震災などです。それ以前もずっとです。
つまり経済というのは、ある種のサイクルがあり、好不調の波を繰り返しているものなのです。ですから、企業経営者は常に「危機」を織り込みながら、事業運営を行っています。危機が襲って来た時に「耐える体力」を会社に蓄えていくことは経営の大きな命題の一つなのです。
その観点で見た際に、今回のコロナによってスポーツ業界の『自転車操業』状態があらわになってしまったと言わざるを得ません。
簡単に言えば、「危機があっても・売り上げが激減しても存続できる企業体力」をつけていなかったことが問題の本質であり、「コロナのせい」で全てことを解決しようとしてはいけないと言うことです。
いくつか例を挙げてみます:
●会社のP/Lだけ見ていてB/Sを管理していない
●中期的な資本政策が考えられていない
●上記の視点に立った人材・組織戦略が確立していない
●最終的に「リーグが助けてくれる」護衛船団的発想がある
このような現象は、ほぼすべてのクラブで起きているのではないでしょうか?
では、なぜこのようなことが起きるのか?
私は、この理由としては大きく3つであると考えています。
●利益成長・蓄積を企業目的としていない ➡「利益を出すくらいなら選手
に使ったほうがいい」という考え方
●緊急ではないが重要な仕事をする人が不在である ➡目の前の仕事で手一
杯・リソース不足
●取締役会が機能不全を起こしている ➡社内・社外取締役(常勤・非常勤取締役)の役割が不明確(財政施策に関する取締役会の責任)
日本はスポーツをあまりビジネス観点で捉えずにここまできました。
その結果として今回のような危機に際し、それを乗り越える企業体力がないことがはっきりしたのではないでしょうか。
では、どのようにしてこの『自転車操業状態』を脱却し、企業体力を強化していけばいいのでしょうか。
もちろん、本丸は「取締役会改革」だと考えています。
しかし、若い方にとっては少し縁遠く・難易度が高いのではないかと思います。
そこで、まずは「改革について」分かりやすく説明したいと思います。
まず一番に知って欲しいのは『改革の順番と期限をはっきり決める』ということです。
危機になるとどうしても様々な箇所、あらゆる事柄に問題があるように見えてきます。まずは、それをきちんと紐解くことが大切なのです。たくさんある課題の多くは「原因と結果」の連鎖になっていることもありますし、バラバラに存在していることもあります。それらをきちんと整理するのです。
全てを同時に解決することはできません。
どれからやるかをきちんと決めて、期限を定めます。
期限の目安としては、大きな改革であっても2〜4年だと考えています。
なぜならば、それ以上の時間が経過すると状況・環境も変化していることが多いからです。危機の最中に、2~4年後に変えられないようなことに手をつけてしまえば、それはさらに危険な状態に落ちるリスクすらあります。
本気で取り組んで、4年後にガラリと変わっていないとすれば、その改革は失敗だという認識です。
経営者はその覚悟を持って取り組むことが大切なのですし、それに従う若いメンバーもその意図をしっかり理解して取り組む必要があるでしょう。
#5.「経営の根本」を正す大きなチャンス
改革の目的は「経営の根本」を正すことです。
そのために3つの大切なポイントがあります。
●「何を変えるか」よりも考えるべきこと
●「なぜ変えるか」、「変えることで生まれる可能性は何か」を考える
●改革を許容するための耐性強化
です。1つ1つ見ていきましょう。
◆「何を変えるか」よりも考えるべきこと
経営改革は「今をどう変えるか」の現状議論ではなく、「未来にどうありたいか」の未来議論が一番大切です。
そしてこの現状議論と未来議論を一緒にしないで、あえて分けることが重要なのです。あらゆる制約条件や過去の習慣・前例を無視して、「こうありたい」と語る未来議論は夢があってワクワクするものになるはずです。そこに、現状がこうだからという意見が混ざると一気に議論がしぼんでしまうのです。ですから、ディスカッションをファシリテートする人はそこに留意して、進めてほしいと思います。
◆「なぜ変えるか」、「変えることで生まれる可能性は何か」を考える
まず、世の中がどう変わっていくのか、それがもたらす影響について考えることです。
たとえば、「人口減少・高齢化社会・人手不足」といった世の中の変化によって、スポーツビジネスはどのような影響を受けるのか考えてみる必要があります(なぜ変えるのか)。
スポーツビジネスが変化・成長することは、上記の社会変化に対してどのようなインパクトをもたらすのか(生まれる可能性)。
◆改革を許容するための耐性を強化する
人間誰しも「変化」は怖い物です。
変化が”普通”にある状態=変革耐性が強い状態をいかに作るかを考える必要があります。
そのためにまず変革の主導者=組織のトップが「変化」をどれだけ楽しめるか、どれだけ貫けるかが大切です。
先述したように「優先順位と期限」を決めることはもちろん大切ですが、当然ながらその通りにはいかないことが多いわけです。すると疑問や不安が組織の中に生まれてきますし、時には経営者自身にその不安が生まれたりします。
経営者はこの不安を乗り越え無ければいけません。
そうでなければ、メンバーを引っ張り続けることは出来ません。
逆に言えば不安を乗り越える姿を見せることが、経営幹部(次世代経営者)にも良い影響を与えられるのです。
以上3つのポイントを意識しながら「経営の根本」を正していくことが必要なのです。
#6.全ての基本は「予算」・「人」・「組織」そして「ガバナンス」
◆「4年半で見えた、杜撰さと曖昧さ」
今まで私が関わってきた企業に比べて、スポーツクラブの経営には、「曖昧だな」と感じる部分が多々あります。特に”企業としての目標”が非常に曖昧だと感じます。
その中でも、「経営指標の開示」に関しては本当に改善の必要があると感じます。
もちろん、上場企業ではないから、ありとあらゆる数値を開示していく必要はないにせよ、少なくとも、「経営指標(重要数値目標)」を期初に明示し、その進捗を定期的に開示することは絶対に必要だと思うのです。
結果数字の公開はされていますが、それだけでは不十分なのです。
数字の開示というのは、その数字自体に意味があるのではなく、その数値を分析・評価した上で、次のアクションを伝えていく必要があるのです。
◆「どこまで成長したいのか?」がはっきりしない
Jリーグクラブの事業規模は、多くの人が想像するよりも驚くほど小さいのが現実です。
「従業員20~30人、売上10億未満」のクラブが半数近くなのです。
一般的には、中小零細企業の部類と言ってもいいと思います。
ビッククラブと呼ばれるところですら、せいぜい100億です。
その割に「知名度・影響力」を持っているのがスポーツクラブの特徴でもあります。
ここで少し、考えてほしいと思いことがあります。
「業界ナンバーワン企業の売上が100億」の業界って魅力的な業界でしょうか?スポーツの持つ感動・共感・喜びなどは非常に貴重なコンテンツです。
しかしながら、それを十分に生かせていない現実や、事業開始してから20年近く経って依然として売り上げが10億に満たないというのは、僕には「経営の怠慢」としか映らないのです。
自分たちの持つコンテンツ・サービスを徹底的に磨き、市場に広めていくために、サッカーやスポーツを離れて他業界に学ぶことが大切です。
成長プロセスの手本・見本は至る所にあるのです。
私の場合は「地方から世界へ」「中小でも世界で戦う力を」をテーマに掲げて他業種・競合企業などをベンチマークしています。
◆曖昧な言葉を数値化せよ
多くのスポーツクラブの公式サイトには、その理念として
「地域密着」「スポーツの力で地域を元気に」のようなファジーな言葉が頻出します。それらの言葉は誰も否定しません。スポーツクラブの存在価値は
社会貢献活動と密接に関わっていますし、その意義は非常に大きいと思っています。
だからこそ、一歩踏み込んで「その実態」をはっきりさせていくことが大事だと思っています。つまりは、全て数値化して表現すると言うことです。
自分たちが取り組む「社会貢献活動」について、回数・内容・参加人数などを目標化して事前公開し、その進捗についても定期開示していくことで、
取組への本気度も変わってくるのではないでしょうか。その継続こそが、「地域密着」をより具体的なものにし、それが新たな支援者を生み出していくという好循環につながっていくと思っています。
ここまで述べた3つのポイントは、まさに「予算・人・組織・ガバナンス」に直結してきます。予算とかガバナンスとか言う言葉を使うと難しく感じるかもしれませんが、次回以降でできるだけ分かりやすく説明したいと思います。
(インタビュー:神田 文責:小出)