夫の実家に帰ること
新婚ほやほやの息子から珍しくLINEがあった。
連休かお盆を利用して帰省したいけど、正直、どうしようか迷ってる…との内容。
末尾に
そちらの意見を聞かせて!
とあった。
結婚式を延期したり、披露宴を無しにしたり…
昨年は、コロナさんに翻弄された息子たち。
たくさん悩み苦しんできた。
だからこそ、帰省するのにも気をつかう。
LINEの内容に息子と彼女の気持ちが伝わってきた。
結婚式以来、会っていない。
式当日は数時間の顔合わせだけだったので、一緒に会食したのはいつだったか…
思い出せないくらい前の事。
職業柄、夫も私も優先接種対象者なので、早めのワクチン接種の予約が出来た。
夫はもうすぐ2度目の接種。
私も来月には完了予定。
ワクチン接種が終わってから、気兼ねなく会おうね。
と、LINEで返事した。
会いたいけど…
ここまで我慢したんだから!
という気持ちの方が強い。
依然として、コロナ感染者は増加傾向にあるし…
離れて暮らしていると、頻繁には会えないけど、こうやって、お互いの気持ちを思いやれるメリットはある。
どうしてるかなぁ〜
元気でいるかなぁ〜
って、相手を思うだけで充分幸せだ。
そもそも、お盆や正月に実家に帰省する事を恒例としなくても良いんじゃないの⁇
と、個人的には思う。
お互いに働いてるし、せっかくのお休みだから、息子たち、私たち、それぞれでのんびり過ごしても良いのでは…
ご先祖様を敬うのはもちろん大事な事だが、自分たちの気持ちをまず第一に優先したい。
お盆やお正月じゃなくても、他にお休みはあるんだし、都合の良い時、会いたい時に帰るのもアリだと思う。
自分の経験上、
結婚後は、盆や正月の行事は、嫁としての任務をこなすためにあり、毎回、3度の食事を作って片付けるという、単純作業だが、そこに楽しさを感じた事はなかった。
義父母も夫の兄弟もみんなお酒が大好き。お盆とお正月は、朝から晩まで酒盛りだった。
当然、裏方に徹する私の負担は多くなる。テーブルを片付けたかと思ったら、次の仕込み。
もう、いい加減にして‼️
と叫びたくなるほどだった。
実家に帰っても他に遊びに出掛ける楽しみなんてなかった…出掛ける先と言えば、朝、昼、晩の食事の材料の買い出し程度。
長い時は1週間。実家に詰め込まれて
一日中、家事、家事、家事。
子どもたちが出来てからは、公園などに出る時間もあったが、概ね、キッチンに立ちっぱなし。母乳で育てていた時期は、夫の実家にいる間は、不思議と母乳の出が悪くなる。
今でも義母のキツい言葉とともに、しんどかった記憶だけが蘇る…
昨年の夏、
夫の実家はなくなった。
義父が亡くなり、義母が施設へ。空き家になった実家は売却することに。
もともと、義父の定年後に買った家なので夫も特に思い入れもなく、売却の話はスムーズに運んだ。全て、義父の遺言通りにやり終えた。
夫の実家がなくなり、
正直、ホッとした。
今でもトラウマがあるせいか、お盆やお正月の時期になると誰よりも敏感になってしまう。
気持ちが沈むのだ。
何がどう?とか
自分でもよく説明ができないが、とにかく結婚して、夫の実家に帰省する事が苦痛でたまらなかった。
だから、息子の大事な彼女にはそんな思いをさせたくない…
結婚して初めての帰省で
義母からいきなり、
「エプロン持ってきた??」
と、聞かれた。
嫁としての意気込みを試されたのだろう…
持ってきてない事を伝えると、
何しに帰ってきたの?と言わんばかりに呆れた顔をされた。
次の帰省の際は
「はい!コレ!」
と、新品のエプロンを手渡されることになる。
冬のキッチンに連日、立ちっぱなしで、あかぎれがすぐ出来る。
ヒリヒリ痛む、血の滲んだ私の指を見て
「絆創膏、貼ったら大丈夫よ」と、義母は平気な顔で、次から次に用事を言いつけてきた。
まるで拷問…
もともと、家事が得意な方ではなかった義母は、手際も要領もどちらかと言うと、良いとは言えない。数日、一緒に過ごせばその辺の事はだいたいわかる。
義母も、食材とメニューだけを私に言い渡し、あとはお任せ状態。手は出さないけど、口を出す。
とても厄介なタイプだった。
あれから30年以上の月日が流れた。
大人になりきれてなかった義母との関わりも実家がなくなったことで、全て終わった。
一番ホッとしているのは、義母だろう。
実家の売却の際、満面の笑みで書類に印を押した。
そして真顔で
「家のお金は全部私の通帳に入れてくれるんでしょ。」
この時の義母はいつになく、喋りも身のこなしもしっかりしていた…
普段はこちらの言うこともあまり理解できない素振りをする。自分にとって都合の悪い事は首を傾げるパフォーマンスか、耳が遠くて聞こえない!というジェスチャーをよく使う。
夫は、義母の演技にいつも振り回される。
何度見ても滑稽だ。
夫は騙せても私には通用しない事も義母はちゃんとわかっているから、スゴい。
演じ分ける能力も備わっている。
実家は跡形もなく、
今では、白亜のモダンな家が建ち、昔の面影すらない。すでに新しい家族が住んでいる。
今年の盆は、静かに過ごそう。
天国の義父もきっと苦笑いだと思うけど…わかってくれるだろう。
息子の大事な人を紹介するのは、もう少し先になるけど、
墓参りの時にきちんと報告しよう。
義母が元気でいる事が、全てを証明してくれてるはずだから。