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あなたがいなかった頃
りんごマークのスマホを使って、6年ほどになる。
写真は30になって暫くしてからものしかない。
卒業アルバムとか、学生時代の友人を大切に持っておくタイプではない。
もともと写真も苦手だ。
誰かが撮ってくれるなら別だが、食べものだとか自分を撮る習慣がない。
誰かに頼まれたり、すすめられて撮ったものしかない。
ブリーチしていた頃の写真を見たい、と彼が言うので
頑張ってフォルダを遡ったが3枚しかなかった。
いずれも他撮り。
ショートにしていて、前髪は流していた。
彼は「写真と実物は、やっぱ違うね。」とだけ言った。
彼は派手な見た目が嫌いなのだ。
そして、子供っぽい女が苦手。
写真にうつる私は、彼のストライクゾーンには入っていない。
それほど容姿の与える影響はすごい。
写真を見ると、その時のことを思い出す。
私は今より若さがあるし、時間もあった。
やせっぽちだけど。
人のことを愚直に信じていた。
お人よしだった。
私は心の中でその頃の自分を抱きしめる。
よくやっていたよ、ありがとうと。
「この頃出会っていたら、あの事件がなかったら
君はウチに来たかな?」
彼はもしも話が好きだ。
たらればとか、もしもとか。
どのみちひとつしか選べないのに。
彼はそんな話をしたあと、猫を両脇に抱えて眠ってしまう。
私はサイドプランクの姿勢をとり、猫をつぶさないよう彼に口付けた。
昔、もやしのように細かった。もともと運動習慣はあったが、やらされていたので現役引退と同時に辞め筋肉が落ちた。
恋愛を通じて人生に向き合ううち習慣になった運動を再開し
今は健康的な肉体になった。
身体こそ自分ができる最高のオシャレだと思い、さまざまなことをシンプルにした。髪もバージン毛に戻した。
時間はかかったが満足している。
そして、彼と出会ったのだ。
いずれの過去の私も、
過去の彼も必要なステップをのぼっていた。
その時は苦しんだり、嘆いたり絶望していたけれど。
気づいたら目標の段に到達していたので
私は俯瞰してまた小さな目標に旗を立てる。
他人はあてにならない。
信用すると、勝手に裏切られたような気持ちになるので信じない。
だが信頼はしている。その人の抱えるものを、その人なりにうまくやる、という意味で。
私は荷物を背負ったままだが
必要なものだけにして
あとは諦めた。放り出したものは沢山ある。
必要なものはまた戻ってくるなり、形を変えて目の前に現れるだろう。
これまでもそうだったから。
失望するのは飽きた、
もうひたすら自分のためだけに歩いていく。
穏やかに、確信をもって。
ゆるやかな足取りで。