苦手なランニングを半分こ
努力しなくても、頑張らなくても続けられることが才能であり特技であるという。
私は数字が苦手だった。恋愛も。
大人になって誰にも強制されることなく働いているうちに
苦手なことを克服したいと思うようになった。
すべて徹底的に学んだ。
沢山の人に出会い、その人の素敵なところを見るように心がけた。
あとは自分が決心するだけだった。誰と恋愛するか、しないで一人を極めるか。
数学に触れず、走らず逃げて回るかどうか。
作業着がメインだが、近頃スポーツウェアも売り出したチェーン店で
私は彼に「これで大丈夫」と言った。
彼は私の顔を見た。
「妥協してる顔だ。だめ。待ってて。」
私の静止もむなしく、彼は店員さんに声をかけて店舗の隅から大きなステップを引っ張り出してきた。
私が立っていた場所にそれを設置し、下から見辛かったラックから「明るい色はあとこのサイズがあるよ。隣のモデルはこのサイズ。」
私は諦めた。妥協してさっさと決めることを。
それで彼の提案を飲み、納得いくまでウェアのサイズとモデルを熟考したのだった。
ステップを戻す際も、私にウェアを並べて見せる時も
ランシューを試着するときも
狭い通路で人を避けつつ私の荷物を持ち
彼は一生懸命選んでくれたので
大きな声で「ありがとう」と伝えた。
いつも通り「ん」とだけ、彼は答える。
欲しいものはない。
苦手なものを克服したいという気持ちと
自分が決めたことを完遂するという目的があるだけ。
今回のウェア選びも、手持ちが日照時間が短くなり乾きづらくなったというだけで
こだわりがあったわけではない。
何でもいいのだけど、
珍しく「乾きやすいウェアに買い替えたい」と溢した時に彼の瞳が輝き、即座に見に行ったのだ。
どうせワンウォッシュするのだから、と
ランチをとった後すぐにそれを着て走りに出ようとすると
彼もついてきた。速乾性の部屋着に着替えて。
驚いていると「体なまってるし」
「今日は走りたい気分だし」「もともと走ってたけど最近休んでて。いい機会だから。」
とか、色々言っていた。私は笑ってしまう。
ペース走をしたかったけど、彼は気合いが入ってインターバルを入れてきた。
だから同じ距離でも相当に疲れた。
それでも、ふたりでするトレーニングは純粋にたのしかったのだ。
それで言う。
「運動に付き合ってくれてありがとう。2人の方が楽しい。」
「俺も、彼女と運動したいって思ってたから。」
まさか、苦手な長距離を
婚約者と走っているなんて
子供の頃の私には想像できないだろうと思う。
数学を勉強していることも、それを誰に言われなくても。
才能なんかないのに。
2人でクールダウンし、膝を回したりモモ裏をのばしたりする。
夕焼けに染まる不器用な彼の頬に私は見惚れていた。