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金曜はアラビアータとハーゲンダッツ
褒めて、というスタンプを送る。
唐突に。
当然彼は意図がわからない。
連勤が終わった週末。
ごった返す改札の前で
彼は驚いた顔をし、にやけるのを堪えていた。
人の流れに沿って彼に合流し
吸い寄せられるように指を絡めて地上へ。
「そういう意味か。」
「そ。褒めて。」
私達はくすくす笑う。
彼はバイクで数十キロを何往復して迎えにきてくれるが
私が迎えにいくのは私達の小さな街の駅までだ。自分の予定が済んでいたら、たまに行く。
ドラッグストアに寄り、
スーパーでちょこっと食糧を買う。
今週はなにかと慌ただしかったから
ハーゲンダッツもカゴに入れる。
珍しく、食パンも。
「打ち上げしよ!」
と私が言うと
「何の?まあいいよ。」と
笑いながら彼が決めたのだ。
「何もない日に打ち上げするのがいいんだよ。」
私はにやにやする。
出口では香ばしい香りを立てて
焼鳥が売っている。
私達は深呼吸をする。指を絡めて。
ビニールをがさがさ言わせながら。
「今日はパスタだし。」
「ハーゲンダッツあるし。」
「「がまん」」
住宅街に彼の革靴と
私のローファーのコツコツ音がひびく。
「満月かな?」
私が見上げると、彼は哲学的なことを言う。
そばをバイクが通り抜ける。
「いつも車道側歩いてくれてるよね。ありがとう。」
彼は即座に無意識!と答える。
そんな訳はないのを、私は知っている。
ひとりで好きなものを好きなだけ買う週末も楽しかった。
仲間とワイワイしたり、
恋愛初期の恋人と過ごすホテルも。
でも、今の私は
この週末のあたたかさが好きだ。
彼にぴったりくっついて、パスタが出来上がるのを眺めていよう。
おなかすいた、とさわぎながら。