滝プラムと柑橘の朝風呂
桃、トマト、りんごのようにみずみずしい暖色のものが好きだった。
秩父の滝を目指しハイエースで車中泊した。
車内用冷蔵庫と果物ナイフ、テレビデオやエアーベッド。箱みかんにアーモンドチョコレート。TSUTAYAの青いバッグ。
大きな黒皮の手帳と数台のPHS、カーナビ。
「ほら、起きて。滝に行くよ。」
ねぼけ眼でかじったプラムは、ほんとうに甘かった。
唯一無二の親友でもあった。
父は褐色の肌と、うねるようなくせ毛を持っていた。
瞳がとても大きくて、なぜ私は父のようになれなかったのだろうと成人するまで思っていた。
髪の毛以外は、彼は父に本当によく似ている。信じられないくらい優しいけれど、自分の譲れないポイントはがんとして聞き入れないところとか。
だらしない、君のためだと世話をやくところとか。
「ほら、起きて。朝風呂に入りんしゃい。」
コアトレをしようと思って早起きをして、窓の結露をとっていると
彼が追いかけてきて手伝ってくれた。
じゃあ、とヨガマットを敷こうとしたら
「あつ森やるんやろ?宿直まで時間あるし、やりんしゃい」
にこにこして言うものだから、私はコントローラをセットし布団に戻った。
彼は嬉しそうにそれを見た。
布団の中で「冷たかねえ、着る毛布ちゃんと着ないと」と小言を言いながら手足をあたためてくれる。
そうこうしているうちに、私たちは二度寝をしたのだ。
起きたら朝風呂の用意がされていた。
お弁当と、翌朝のおにぎりと、今日の朝食の支度をしながら私を起こす彼は
あの日の父に重なる。
狭いバスタブに、ぷかぷかと柑橘の皮が浮いている。
熊本のおかあさんが送ってくれたのだ。餅やら白菜やらお菓子と一緒に。
私は、コアトレを諦める。
夜勤中のおやつをやめたらコアトレ以上の成果になるから。
「ありがとう。先にいただくね。」
そして、このnoteを書いている。
とんとん、と響く包丁の音。
じゅう、ソーセージの香ばしい香りがする。