見出し画像

「平均」とは平らに均すことです

Cover Photo by Dan Meyers on Unsplash

5年生D領域(2)

D(2)測定値の平均
(2)測定した結果を平均する方法に関わる数学的活動を通して,次の事項を身に付ける
 ア:知識及び技能
  (ア)平均の意味について理解すること。
 イ:思考力,判断力,表現力等
  (ア)概括的に捉えることに着目し,測定した結果を平均する方法について考察し,それを学習や日常生活に生かすこと。

「解説」より

5年生のD領域にはもう一つ、とても重要な内容が書かれています。「平均」です。

「平均」の計算

平均の計算の仕方は、大人の皆さんは当然ご存知でしょうが、確認しておきます。

平均=(すべての測定値の合計)÷(測定値の数)

つまり、まず測定された値(数)をぜんぶ足します。それを測定値の数(10回測定してあるな10で、134回測定したなら134で)割ります。これが小学校で学習する「平均」の計算式です。
「平均」はこのほかに、主に2種類の計算方法があります。それらと区別するために、上記の計算方法を「算術平均」あるいは「相加平均」と呼ぶことがあります。
もちろん、その場合には「平均」の意味するところが違ってきます。相乗平均または幾何平均と呼ばれる方法と、調和平均と呼ばれる方法です。説明はしません。統計でこれを使うことは、たぶんないでしょうから。
余談ですが、公認心理師試験に、算術平均とか幾何平均とかが選択肢に並んでいる問題が出たことがあるようです。正直な話、「やな問題だねえ~」と思いましたが、試験問題を作成された先生には内緒にしておいてください。

日常語としての「平均」

しかし、ややこしいのは、日常会話の中でも「平均」という語は使われていて、日常会話の中での「平均」は、決して「算術平均」という意味ではないことも多いのです。「新明解」に「平均的」という見出しがあって、二つ目の意味として次の語釈があります。

【平均的】2:同じ条件かにあるものの全体に共通する傾向を備えていて、大部分が当てはまる様子だ。例:「―な日本人の考え方だ」

三省堂「新明解国語辞典第七版」(2012)電子辞書版より抜粋

この「平均的」の意味は、統計学的には「最頻値」の意味です。平均のことを英語で「average」といいますが(Excelの平均値を求める関数もaverageですね)、こちらも同様です。

【average】2:〈人・物・程度・量などが〉平均的な、並みの、標準的な、まあまあの;大したことのない

三省堂「ウィズダム英和辞典第3版」(2012)電子辞書版より抜粋

やはり、最頻値あるいは中央値のような意味をもっています。

このような感覚で「平均」「average」を理解していると、たとえば「テストの平均点は80点でした」というときに、「ああ、80点の人が一番多かったのね。」という謎の解釈をしてしまうのではないかと思うのです。この解釈は誤りです。平均点は、上記の計算式でわかるように、割り算がはいっていますから、多くの場合、「平均点は78.4点でした」みたいに、割り切れず小数になります。このとき、「ああ、78.4点の人が一番多かったのね。」とは思いませんよね。

くどいようですが、平均点が78.4点ということは、たとえば次のようなことです。試験を受けた人が10人いました。10人の点数を合計すると、784点でした。10で割ったので平均点は78.4点です。10人の点数を合計すると784点、というとき、10人の点数がそれぞれ何点だったのかは、いくらでも可能性があります。このように、個々の情報が失われるのが平均の特徴です。

「概数」との関係

5年生での「平均」の学習は、概数の学習とも関連をもっています。「解説」には次のような説明があります。

歩測によってある長さを調べる場合,その処理方法としては,何度か往復して歩数を何回か測り,これを平均したものが用いられる。

「解説」より

現在の教材はどうなっているか知りませんが、私が指導していた頃の教材は、たとえば次のような内容がありました。

  1. 自分の歩幅を調べるために、10歩分、歩いた距離を巻き尺で測る。(当然、毎回少しずつ違う)

  2. 平均値を計算して、自分の歩幅がおおよそ何センチであるかを知る。

  3. その情報をもとに、実際の道のり(学校の敷地の回りとか、学校から自分の家までとか)を、「何歩分だったから、およそ何メートル」と測る。

2つ目の活動に平均値が関わります。一歩だけ測定するのは難しいので、多くの測定値を得て、平均するのが妥当だというわけです。つまり、測定には誤差があること、平均することで誤差を均すことができること、を指導しているわけです。その上で、6年生では、これとは少々異なる意味でもう一回、平均値を学習することになります。

うわあ、小学生の算数難しい。平均値の2つの意味とか、指導して納得させる自信なんか1ミリもない。優秀な先生は30ミリくらい自信があるのかなあ。5ミリくらいの先生もいるだろう。0.5ミリの先生もいたりして。平均すると何ミリだろう。(どうでもいい話でした。だいたい、自信というのはミリで測るものではありませんね。ではどうやって測るのか? それは、心理学の課題です。)

「平均」の図形的イメージ

最後に、平均という操作の図形的イメージについて書いておきます。

測定した結果を平均する方法については,多いところから少ないところへ移動しならすという方法や,全てを足し合わせたのち等分するという方法が考えられるが,それらの方法と平均の意味を関連させて理解できるようにする。

「解説」より(太字は引用者)

この「多いところから少ないところへ移動してならす」(「ならす」は、「均す」と書きます。平均の「均」ですね)が、もっとも平易なイメージではないかと思います。

こんな感じに、多いところから少ないところへ
はじめから6個ずつ分ければいいのに・・・

この、均された図形が長方形になるので、「だったら合計を人数で割り算すれば?」というような発想につなげやすいように思います。
ジュースなど液体のもので考えれば、割り切れなくても小数にすればいい、分数で表してもいい、とにかく平らに均すのだという、平均の意味の理解につなげていくことができると思われます。

演習問題

途中で、「10人の点数を合計すると、784点でした。10で割ったので平均点は78.4点です。」という例を出しました。
では、10人の点数を合計すると784点になるには、10人がそれぞれ何点であった場合が考えられますか。答えは非常に多く考えられますが、なるべく極端な場合をいくつか考えてください。

解答例:80, 80, 80, 80, 80, 80, 80, 80, 80, 64(合計784点)