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データを測る4つのものさし(3)順序ものさし

順序ものさし

順序ものさしは、順序関係だけが決まっているものさしである。2つの測定値があったとき、こちらが上、こちらが下、というように順序関係が決まればそれでよい。なので、いちおう目盛りはついているが、目盛りの位置は等間隔でなくてよい。

順序ものさしの例として、競争の着順や、成績評定などがあげられる。
着順では1位、2位、3位と順序がつく。2位の人が金メダルをもらうのはおかしいし、4位の人はメダルをもらえない。ただし、(100m競争のゴールの瞬間を思い浮かべるといいが)1位と2位、2位と3位が同じ間隔でゴールするわけではない。
成績評定も同じで、A,B,Cと評定をするとして、90点以上がA、80点以上90点未満がB、70点以上80点未満がCとすると、たしかに順序がある。ただし、A評定の人とB評定の人がいつも同じ点数差ではない。

と、いうような説明が、統計の教科書ではされている。しかし、順序ものさしについては、もっと議論すべきことがある。それは、心理学の概念をはかるものさしは、ほとんど順序ものさしであるという点だ。

幸福感を測ってみよう

主観的幸福感、というのは、きわめて心理学的な概念である。なにしろ、「主観的」に感じる幸福感なのだから。たとえ財産が何億円あろうと、それをもって「ああ、幸せだ」と感じなければ主観的幸福感は低いだろう。
主観的幸福感を測るのに、ものすごくストレートに質問することもある。あなたは今、どれくらい幸福ですか。0(これ以上ないほど不幸)から10(これ以上ないほど幸福)の、どれくらいですか。みたいな。
(注)文献を参照せずに書いているので、質問文が正しくない可能性があります。こんな感じの調査もあるよ~、ということで、この尋ね方が正しい!なんて言っているのではありません。

これに対して、「7」と答えた人と、「8」と答えた人は、おそらく、「8」と答えた人の方が、主観的には幸福感を少し高く感じているだろうと思われる。しかし、その差がどれだけかと聞かれても答えられないし、「6」と答えた人と「7」と答えた人との差と同じ差なのかも、やはりわからない。つまり、「順序ものさし」以上のものさしが使えるとは到底思えない。

好きか嫌いか

別の問題。ある新商品について、購買者の好き嫌いを尋ねることを考える。次のような聞き方がある。
あなたはこの商品がどれくらい好きですか。1:とても嫌い、2:やや嫌い、3:どちらでもない、4:やや好き、5:とても好き。
このとき、「やや好き」と「とても好き」の違いは、「とても嫌い」と「やや嫌い」の違いと同じだろうか。などと聞かれても、そんなの、人によって違うんじゃないの? としか言えない。つまり、順序ものさしでしかない。こういう調査は、実際にたくさん行われている。
好き嫌い以外にも、「この意見に、あなたはどのくらい同意しますか(強く同意、やや同意、、、)」や「次の考えは、あなたの考えにどのくらいあてはまりますか(とてもあてはまる、ややあてはまる、、、)」など。後のために用語を導入すると、こういうのを「リッカート尺度」などと呼ぶ。

計算してはいけない?

さて、重要なのはここから。統計学の教科書には、順序ものさしを使って測定したデータについては、計算してはいけないと書いてある。
つまり、Aさんは「とても好き=5」、Bさんは「やや好き=4」、Cさんは「やや好き=4」、Dさんは「やや嫌い=2」なので、4人の平均は、(5+4+4+2)/4=3.75。などと計算してはいけない。

え???

心理学の論文では、「あてはまる」「ややあてはまる」・・・などで測定したデータについて、平均値を出して、標準偏差を出している。上記の「計算してはいけない」を厳密に適用するなら、これらの論文はすべて、やってはいけないことをやっている論文である。(ちなみに私の卒業研究も、修士論文もこれにあてはまる。)

とはいいつつ、ある条件の下で、こうしたリッカート尺度による測定は、「間隔ものさし」として扱ってよいとされている。詳しくは、次の本などをお読みいただくのがよい。