5-5.発達障害を調べる 前編
私が仲良くしてた「虐待・面前DV仲間」の中には、すごく変わった子が一人いた。
その子はいつも待ち合わせに遅れてくるし、遅刻連絡もしない。いつもぼーっとしていて、お店でメニューを決めるのも人一倍時間がかかるし、食べるのも遅い。人の話を聞いていない風で、とにかくマイペース。自分がしゃべりたい時はマシンガンのように早口でしゃべるのだが、話し上手ではないので、支離滅裂。
いつも「ケータイがない」「切符がない」「手帳がない」と騒いでいるが紛失しておらず、一時的にしまう場所が定まっていないから探しているだけ。お財布を家に忘れやすいので、会計時に割り勘が成立しないこともあるし、貸しても返ってこない。
皆には天然と呼ばれて愛されていたが、「あの子は発達障害の薬を飲んでいるらしい」という噂を聞いた。そこで私も、自分の発達障害が気になるようになった。
というのも、何度も述べた通り、小中高の私は忘れ物クイーンだった。大学時代は全部の荷物を自治会のロッカーにぶち込むことで忘れ物を回避していたが、それでも急に必要になるものは何でも忘れた。
地下鉄に乗れば、ぼーっとしていまい、降りる駅を過ぎてしまうこともあるし、きちんと降りられても、切符がなくなるのは日常茶飯事だ。冷蔵庫で目的のものが探せなかったり、目が滑って説明書が読めないこともあったし、注意しないと人の話が聞けない。BGMがある場所では、人の話よりもBGMが聞こえすぎてしまい、会話ができない。人の声は聞こえていても、瞬時に内容ができなかったり、あとから急に意味が分かってリアクションを間違えたことに気が付くなんてこともあった。
しかし、そういう自分のことを受け入れて生活しているので「切符は左手に握ったまま降りるまでポケットなどに入れない」と決めたり、「駅に着くたびに電光掲示板を見て現在地を確認する癖をつける」と決めて行動することによって、エラーを防いでいる。
遅刻も、手帳に約束の時間を書くだけでなく、出発時間、化粧開始の時間、食事の時間、起床時間なども全て書き出しておき、失敗しないようにしていた。自分に発達障害があるかもしれないと思いつつも、そういう努力で「ギリギリ普通の人」として暮らしていた。
結婚して一年半が経った頃、夫に「そろそろ子どもがほしい」と言われた。子どもを望んでいなかった私は「ついにその時が来てしまった」と落ち込んだ。
虐待は連鎖すると聞く。軽い気持ちで子どもを産んでしまったら、私が子どもを虐待してしまう確率は高いと思っていた。
ましてや面前DVと言うのは、子ども本人を殴るわけではないのだ。相当気を付けて生活をしなければ、どんな行動が我が子を苦しめてしまうか分からない。細心の注意を払った「つもり」だったが、「結果として虐待してしまいました」では済まないと思う。
夫は優しいので、そういう気持ちも受け止めてくれたが、どうしても子どもが欲しい様子だった。
そこで、私は意を決して自分の脳を調べることにした。以前に「発達障害は七〇%の確率で遺伝する」という情報をテレビで見て、自分に発達障害があるなら、尚更子どもは産みたくないと思っていたからだ。
すぐに精神科に電話をした。
「何か自覚症状があるんですか?」
「テレビで発達障害の特集を見て、その特徴に当てはまる部分が多いんです」
「自分が周りと違うと自覚している人は検査するほど重症じゃないので、必要ないと思いますよ」
「それでも気になるので調べたいんです」
散々粘って、予約を入れてもらうことができた。
病院を訪れると、個室に案内されて、ひたすら筆記テストをした。家族構成や、家族とどのような関係か、自分のプロフィールや、自覚している性格、能力、欠点などを書き出していくというものだ。また、「こんな時どう思うか」という主観を問う設問が大量にあった。自分のいいところを百個書き出す用紙もあった。
静かな部屋で一時間以上集中して書き物をした。私は少々飽きつつも、全て冷静にこなすことができた。
次に、筆記の結果を見た心理士と面談があった。すぐに、家庭環境に問題のあるという点を多めにつっこまれた。
父、母、弟についてどう思うか、恨んでいるか、もう会いたくないと思っているか、など、プライベートな部分をえぐってくる。家族のことを聞かれると、何故か涙があふれて手の震えが止まらなかった。夫婦喧嘩から一方的なDVに発展して、今日まで苦しんできたことを、号泣しながら話した。本当は話したくなかったが、こういうことが正しい結果につながると思ったので素直に話すことにした。
二日目は、最初から心理士の人がついて、イラストカードや図形を使って、耳からの理解、目からの理解、どのくらい言葉での説明力があるかを調べた。パソコンを使ったIQテストもした。中学生程度の問題を、耳だけで理解して答えを言う検査や、筆記の学力テストもあった。
一日目に持ち帰り、夫に私の様子を記入してもらった用紙も提出した。
ここまでの検査で、私は「ややこだわりが強いが、ずばぬけて優秀で、IQが高い」ということが分かった。
(長いので次回に続きます。次回は三日目、医師の診察編です)