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藤原正彦 民主主義という幻想 古風堂々33

文・藤原正彦(作家・数学者)

米国のバイデン大統領が「民主主義サミット」を開催した。110ほどの国や地域の首脳などが招かれ、日本からは岸田首相が出席した。中国、ロシアが招待されず台湾が招待されたのを見ても、反専制主義という大義の下、自らの主導で民主主義国を結集し、中ロ包囲網を作ろうというものだ。中ロ、とりわけ中国による軍事力や経済力を用いた、傍若無人ともいえる他国への威圧や国内少数民族への人権抑圧、などを封じこめるのは大賛成だが、なぜか喉にひっかかる小骨がある。

民主主義の定義は知らないが、自由、平等、人権、国民主権などのことと思ってよいだろう。第1の小骨はアメリカが世界の民主主義を主導できるほど模範的な国かということだ。確かに初めて民主主義を実現した国で、フランス革命後に訪米したフランスの政治思想家トクヴィルはその著書『アメリカの民主主義』の中で国民主権に大いに感心した。しかし、その後のアメリカは常に中国も顔負けの、人権無視と覇権主義の国家だった。啓蒙されていない人々に自由、平等、キリストの福音、などを広げることこそアメリカの明白な天命、という意味のスローガン「マニフェスト・デスティニー」の下、先住民を虐殺し、黒人を奴隷化した。カリフォルニア、テキサスなど西部諸州をメキシコから強奪し、ハワイ王国を滅ぼして併合し、スペインに戦争を仕掛け、中米、グアム、フィリピンを植民地とした。すべて19世紀の出来事である。20世紀になると、中国への進出の障害であり日露戦争で白人優位を脅かすようになった日本を叩きのめした。戦後には、共産圏潰しやベトナム戦争、イラク戦争、「アラブの春」など覇権拡大に励んだ。人権に関する黒い歴史は今も続き、移民差別、貧富の格差を抱え、1日100人以上が銃により命を落としている。人権の中核である生命すら守られていない国なのだ。

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