出口治明さんの「今月の必読書」...『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』
仕事も家庭も趣味も勉強にもみんなが貪欲
2年連続して幸福度世界1位になったフィンランドという国がある。人口は約550万人、1人当たりGDPは世界16位で約5万ドル(2019年)と日本(24位)の1.25倍、経済成長率は2.4%(2018年)、国際競争力(IMD発表)は15位(日本は30位、2019年)という国だ。サンナ・マリンという34歳の女性首相が昨年末に誕生したことで日本でも話題を呼んだ。本書は、そのフィンランド流の働き方や生き方を述べたものである。
日本では、北欧といえば「高負担・高福祉(税金が高く福祉が手厚い)」の国というステレオタイプ的なイメージを抱く人が多く、「一所懸命働かない国」と思いがちだ。「午後4時に仕事が終わる」という本書のタイトルからも、やはりそうだと早合点するかもしれない。しかし、北欧の特徴は、高負担・高福祉でありながらも、国際競争力が強く、経済成長率が高いところにある。つまり効率がいいのだ。1人当たりGDPが日本より高いのも、その裏付けとなる時間当たり労働生産性が高いからだ(フィンランド14位、日本21位)。
具体的な働き方や生き方をみてみよう。先ずフィンランドは人生の選択を限定する要素が少なく、年齢、性別、家庭の経済状況がたいした障壁にならない。世界で2番目に格差が少なく、子どもの貧困率は3.7%(2番目に低い)、日本は15.8%だ。16時を過ぎるとみんな帰っていき、残業しないのができる人の証拠と考えられている。在宅勤務(週1度以上)は3割で、コーヒー休憩が法定されている。仕事文化に欠かせないキーワードはウェルビーイング(心身の健康的な状態)だ。ウェルビーイングと効率はリンクしている。この点がとても重要だ。肩書は関係なくオープンでフラットな組織が普通だ。父親の8割が育休をとる。夏休みは1カ月で1年は11カ月と割り切って仕事をする。フィンランドは教育先進国として有名だが、偏差値は存在せず学歴で人を判断することもない。睡眠は7時間半以上とるが、仕事も家庭も趣味も勉強にもみんなが貪欲だ。10人のうち6人は転職経験を持つが、そのうち2人に1人が転職に際し新しい専門性や学位を取得している。レイオフを乗り切る切り札は学びなのだ。フィンランドの社会は再チャレンジの可能性に溢れている。年齢や性別に関係なく自分を高めていくことができるしやり直しもできるのだ。著者は「仕事もプライベートも大切にしてこそ、幸せな働き方ができ、幸せに生きていけると信じている」と結んでいるが、ライフワークバランスのお手本のような国ではないか。
わが国では北欧に言及すると「小さい国と人口1億の国では出来ることが異なる」という反論がなされる。それなら道州制にして小国に分割すればいいだけの話ではないか。
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