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【全文公開】令和の時代を生きるために 中島岳志さんの「わたしのベスト3」

東京工業大学教授の中島岳志さんが、令和に読み継ぎたい名著3冊を紹介します。

9_中島岳志書評特集

『中動態の世界』は能動態(「する」)と受動態(「される」)という2元論に還元されない「中動態」という言語のあり方から、人間の行為の本質に迫る。私たちが「想いに耽る」とき、その「想い」は私の意志を超えて展開する。「想い」はままならない。私たちの行為は、必ずしも意志に支配されていない。

 國分は、歴史の中に埋もれつつある中動態の構造を再起動し、近代的人間観への再考を促す。例えばアルコール依存症や薬物依存症は、本人の意志の問題に還元され、やめられないのは意志が弱いからだと責められる。しかし、やめようと努力すればするほど、やめられなくなる傾向があるという。私たちは意志の牢獄から解放されなければならない。古い文法構造の中から人間のあり方そのものを問い直す名著。

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★2020年1月号(12月配信)記事の目次はこちら

『想像ラジオ』は死者との対話がテーマの小説。あの日、津波が去った後、高い木の上に1人の男が引っかかった。彼はDJ。自分が死んだことを認識しないまま、ラジオ放送を始めた。電波は、人々の想像力。私たちは、死者からの声を聞くことができるのか。臨在する死者を遠ざけ、生きている人間だけを構成員と考える現代社会に対して、いとうは死者との共生を模索する。死者の声は不意にやってくる。死者もまた、ままならない存在だ。その声は、私の意志の外部からやってくる。問題は、死者の声に耳を傾けることができるかどうかだ。

『魂にふれる』の主題も、死者との共生。悲しみが胸にわくとき、それは死者が接近しているシグナルであるという。「悲しみ」もまた、「する」と「される」の世界に回収されない。どこからか唐突にやって来る中動態的存在だ。

 令和の時代は、少子高齢化が進み、人口減少が加速する。高度経済成長期のマインドのままでは、生きることができない。私たちを支配する世界観に対して、本格的な変革が求められる。そんな時、この3冊は大切な視座を与えてくれる。



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