さくらインターネット研究所に異動しました
2022年8月1日付で、社長室からさくらインターネット研究所に異動しました。
今回の記事は、私の研究テーマ、研究所への異動に対する決意を含めた経緯や、これから始まる研究所での業務への期待、自身への期待などについて書いていきたいと思います。
さくらインターネット研究所で何を研究するのか?
私の専門は「教育学」です。教育学の中でも「臨床教育学」という学問を主体として、2021年から藤女子大学大学院の修士課程で学んでいます。さくらインターネット研究所(以下研究所)でも、引き続きこの臨床教育学を主体とした研究を進めていきます。
臨床教育学は、教育の世界における臨床(実際の現場、そこに身を置く人たち)に対する研究であり、心理学や哲学などの影響を強く受けながら、教育の在り方を深く考える学問です。私の研究は、工学系の研究が主体の当研究所の中で異色の存在だと思います。
研究のテーマは「教員のエンパワーメント」「社会に開かれた教育」といった方向性です。
ここで言う「教員」「教育」の対象は日本の多くの人が学ぶ公立学校、中でも自分の経験上初等教育に焦点を当てています。
改訂されすでに実施に移されている学習指導要領で求められるたくさんの「新しい学習内容」や「学び方の変化」「指導・評価の変化」に頭を悩ませる先生方の力になりたいというのが、この研究テーマに取り組む動機です。
未来や理想を0から作っていく研究というよりも、現在の日本の教育や現場で働いているごく一般の教員の姿をしっかり見つめ、さまざまな領域の研究も広く考慮しながら「今」「質」を支えていく研究なのだと考えています。
なぜ研究所に異動したのか?
私の社会人経験のルーツは、幼稚園教諭・保育士といった幼児教育です。特に幼稚園教諭としては通算11年、うち4年は主任教諭を務めました。
そこから異業種転職をしたのが2004年・34歳の時。Webデザイナーからはじまり、プログラマー、サーバ管理者とインターネット黎明期のWebサービスにエンジニアという立場で関わってきました。そして2012年にさくらインターネットに転職し、データセンターの運用やリーダーとしての管理職業務、プロジェクトマネージャーとして「さくらの学校支援プロジェクト」の企画立案と推進、直近の社長室の業務と続いていきます。
これらの経験の中で、「研究者」という可能性を意識したのはほんの2年前のことでした。「さくらの学校支援プロジェクト」の活動で知り合った大学の先生から大学院への進学を勧められたことがきっかけです。その前にも青山学院大学のワークショップデザイナー育成プログラムに参加した時に、憧れとして「研究っておもしろそうだな。やってみたいな。」という気持ちの芽生えがあったものの、本気で自分が研究者になれるとは全く思っていませんでした。
「さくらの学校支援プロジェクト」の活動は、幼児教育とエンジニアの経験を持つ自分にとっては天職とも言えるものでしたが、会社の事業としては有期で行っており、いろいろな事情から継続はしませんでした。その後の研究テーマにはこの活動によって得た知見や思いが強く反映されています。
大学院に自分が進学できるなんて数年前には思いもよらなかったように、私が研究所に異動できるとは、ほんの2カ月前には思いもよらないことでした。
本当に気軽な気持ちで、職業としての研究者とはどんな感じなんだろう?ということを聞くために、研究所所長である鷲北さんに1on1を申し込んだのは、7月初旬のことです。
鷲北さんは私の話を聞き、研究所に誘ってくださいました。工学系の研究ではないものの「インターネット」にかかわる研究であれば受け入れには問題ないこと、研究所としても取り扱う研究領域に縛りを設けるのではなく幅広い領域で研究を推進することにメリットを感じることなどを話してくださいました。
私自身もこれからの教育は文理の区別なく、みんながICTを学び、それを生活に生かしていくことが必要だという立場、そして様々な社会的な関係性や人の置かれた状況も含めて研究を行っていく臨床教育学の立場から、異なる領域で研究を行う研究者の皆さんとの交流はとても重要だと考えています。
そして、研究所の上級研究員であるまつもとりーさんが発表していた組織の評価制度についての考察を読んで、臨床教育学とも深く関連付けられる内容だと思いましたし、こういった発想を臨床教育学の視点から捉えなおすということも自分にはできると感じました。
その後の調整の中で問われたのが、簡単に言うと私自身にこれから研究者としてキャリア形成をしていく「覚悟」がどの程度あるのか?ということだったと思います。やりたいことは本当に「研究」なのか?それとも大学教員になることなのか?それとも修士課程を修了するまでの一時的な希望なのか?ということです。
もちろん、これから教育を担う教員を育てたい、教員のエンパワーメントをしたいという動機がありますので、良いご縁があり、それが社会の役に立つことであれば大学教員という道も考えたいと思っています。そのためには大学教員が務まるだけの説得力ある理論も持っていなければならないと思いますので、修士から先の進学についても考えるつもりではいました。そういった意味では、すでに研究をしていく「覚悟」はある程度固まっており、会社にもその成果でリターンできるものが見つけられそうだという見通しもあります。
そんな思いを鷲北さんに伝え、そして研究所での働き方、評価制度についても納得した上で、研究所への所属が正式に決まりました。
研究所での研究、そして自分自身に何を期待するのか?
研究所で研究させていただくことになり、プライベートで研究を進めるよりも圧倒的に研究に没頭できる時間が増えました。その分成果については求められること(量・質)もぐんとハードルが高くなったと感じています。
そのような状況の中で、この研究所で自分が果たすべき役割をまだ何も始まっていない現時点では以下のように考えています。
「臨床教育学」の立場から、教育とICT、教育と社会の関係性を紐解き、学術的な解釈を行ってそれを広める
エンジニア以外の層がICTに関する研究に興味関心を寄せられるように導く
1点目については、大学院の修士論文のテーマとも連動させつつ、論文の発表を行っていきます。ICTと教育というテーマにおいて、これまで教育という視点では教育工学や情報学の視点での研究が進められていますが、臨床教育学としてはまだほとんど先行研究がありません。だからこそ意義があると感じており、少しでも影響力のある論文を書けるよう精進します。
1点目にもつながることですが、エンジニアとそうでない人たちをつなぐ役割は、自分のように教育とエンジニア両面の経験を持つ人間だからこそできることがたくさんあると考えています。
そもそも私自身30代半ばまでプログラミングの知識はありませんでしたし、エンジニアとしても中途半端なスキルしか持っていませんが、そのような立場だからわかること、伝えられることがあるということをこれまでの活動の中で感じてきました。
インターネットはICTの技術という視点で掘り下げることもできますが、人と人とをつなぐコミュニケーションの手段でもあり、コミュニティ論にも関係してきます。インターネットを使ったコミュニケーションについて、教育と社会とのつながりとも重ね合わせつつ深く考えていけたらと思っています。
すでに期待が確信に変わりつつありますが、異動が社内発表されて研究所の皆さんが私のためにいろいろと受け入れ準備をしてくださっている様子をSlackで拝見しながら、この異動が自分にとって最高の選択だったと思えるよう、いただいたチャンスを大切にしていきます!
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