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LIBRARIAN|維月 楓の小部屋

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モーヴ・アブサン・ブック・クラブの司書 維月楓の小部屋 | 詩人・映像作家 | 古今東西の女性・クィアの作品を読み解くことを通して、新たな生の軌跡を思想している。 霧とリボンで…
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記事一覧

ニコラス・カルペパーの窓|CANDLE STUDIO MAGIERA《1》|キャンドルの灯、黒鳥の尻尾

 キャンドルブランド・CANDLE STUDIO MAGIERA様の3作品をご紹介いたします。ビーズワックスで作られたキャンドルとオブジェが荘厳な空間を演出する作品です。  最初にご紹介する「Violet Monument」は、本展《植物と香りのネセセールvol.2〜ニコラス・カルペパーの窓》のメインヴィジュアルとして存在感を残します。  思わず息を呑む、漆黒のキャンドルが厳かに佇む姿ーー。  古文書のような柔らかな肌触り。華やかな菫色の押し花が目を引くキャンドル。紫色の

ニコラス・カルペパーの窓|CANDLE STUDIO MAGIERA《2》|星図に導かれしハーブの灯

 CANDLE STUDIO MAGIERA様のビーズワックスを素材としたオーナメント1作とキャンドル2作をご紹介します。本記事では、植物の効能が惑星から由来すると考えられていた時代、占星医術師としてのカルペパーにオマージュを捧げます。  一つ目の作品「GEMINI」は双子座を象ったオーナメント。   軽やかに宙に浮かぶ双子の姿。エメラルド色の惑星を思わせる球体に乗った双子のひとりに、きらきら光る蝶の羽根を背中に広げたもうひとり。お茶目な雰囲気と厳かさを漂わせる双子がくる

ニコラス・カルペパーの窓|marship《2》|紫陽花の面影、木の実の遠影

 17世紀英国のハーバリスト、ニコラス・カルペパーにオマージュを捧げる本展。今回が霧とリボンの企画展に初参加となるジュエリー&アクセサリーブランド marship様の作品をご紹介いたします。  植物の目に見えない効能を書物にまとめ民衆に伝えたカルペパー。  marship様の作品は、私たちが日常の中で見逃してしまう植物の美しさを引き出します。ひらりと変化する紫陽花や木の実、双葉、その表情を捉えたアクセサリー4点をご紹介します。  しゃらりと揺れるチェーンタッセルがアンティ

植物と香りのネセセール〜マリアンヌ・ノースの旅|アーティスト紹介

 ヴィクトリア朝時代、植物を求めて世界中を旅した植物画家「マリアンヌ・ノース(1830〜1890)」の聡明な冒険心へオードを捧げ、花々と旅情に満ちた香り高い展覧会を開催致します。 参加アーティスト16組のご紹介です * * * *

CONCIERGE|アブサン宣言

TextMistress Noohl  アブサン色の風と共に、モーヴ街に春がやってきました。  アブサンの頽廃と清冽に敬愛を込めて、ここにを高らかに掲げたいと思います。詩に託した「アブサンの文法」をぜひご高覧下さい。  《アブサン宣言》はまず、前半の二節をモーヴ街図書館の司書・嶋田青磁さまが綴り、そののち後半の二節をもうひとりの司書・維月 楓さまが手掛け、完成しました。  二人の詩人が書簡のように交わした《アブサン宣言》を合図に、モーヴ街にアブサンの文法で調合されたリキュ

巻頭詩&エッセイ|維月 楓|モーヴ街2周年に寄せて―生と美の可能性―

 かの人が曇り空の下で想いを遊ばせた土地で、私は灰色のコンクリートの上に生きて、文字を飛ばして生きる者として精進しており、菫色の詩集を開けたのですが、そこには日本の言葉と化けたその人の詩が踊っていました。今や海路でも渡れない遠くのあなたに、詩集を拓けばわたしは会うことができるのです。もはや後にした故郷の話に出てくる空に浮かぶチェシャ猫の姿のように、紙面に浮かぶ文字はなぜか眼光の形として心に射し込み、熱く燃える印象を付けられました。 *  霧とリボンさま主催のアートプロジェ

維月 楓|反射しあうビリティスの娘たちへ

*  霧とリボンと私を結びつけたのは「ビリティスの娘」だった。フェミニズムの過剰の美学と透き通ったエレガンスの部屋を携えて、『若草物語』のジョーとベスを行ったり来たりしながら、新幹線で首都へ向かい虚空の街を歩きながら見つけた。人生の新たな扉が開く瞬間は不意に現れる。約束が果たされるまで鈍い幕をいくつも開ける。最初はそれとは分からない横雲に触れるとだんだんと目が眩んでくる。サッフォーの手招き。霧の中にたなびくリボン。灰色なのは曇天だったか、それとも指に結ばれたリボンだったか。

エミリー・ディキンソン|気高きは、小さきもの、[55]

TextKaede Itsuki Emily Dickinson エミリー・ディキンソン|詩 維月 楓|訳 By Chivalries as tiny, A Blossom, or a Book, The seeds of smiles are planted--- Which blossom in the dark. 気高きは、小さきもの、 一本の花、一冊の本も、 ほほえみの種は宿され――― 暗闇において花開く。 エミリー・ディキンソン| Emily Elizab

佐分利史子|ライラックの海のうえ[1368]

TextKIRI to RIBBON  英仏文学を題材としたカリグラフィ作品を発表する7番地・スクリプトリウム内。本イベント《モーヴ街のクリスマス》では2点の新作をお届け致します。  最初にご紹介するのは、アメリカの詩人エミリー・ディキンソン「ライラックの海の上[1368]」。モーヴ街図書館司書・維月 楓さまによるエミリーの息遣いに寄り添う翻訳と共にどうぞお楽しみ下さい。 *  印象的な初行「ライラックの海の上」が最初の大文字「O」に写され、聖夜を迎えようとする今

新訳付作品集『Emily’s Herbarium』のご紹介|クリスマスに寄せて

Text|Kaede Itsuki  一段と冬の寒さも深まり、クリスマスソングの聞こえる季節となりました。クリスマスといえば、愛情に満ちた人々が輪になって集まるような暖かい気持ちと、どこか心の芯に凍てつく孤独に気付かされるような少しの寂しさを感じます。年の瀬の高揚感と終焉への身に沁みる冷たさという両極端の気持ちがせめぎあう季節。19世紀に生きたエミリー・ディキンソンの詩のなかにも同じように二つの感情が揺らぎ、さまよい歩くような詩が多くあります。  今秋に開催された「金

ヴァージニア・ウルフ|青色と緑色

TextKaede Itsuki Blue and Green|Virginia Woolf 青色と緑色|ヴァージニア・ウルフ| GREEN The pointed fingers of glass hang downwards. The light slides down the glass, and drops a pool of green. All day long the ten fingers of the lustre drop green upon

KAEDE|アイリーン・アドラーと変幻する女性たち――アイリーン、お勢、モリアーティとして――

TextKaede Itsuki Art Work|Fumiko Saburi  どうして人は「宿命の女」に魅了されるのか。ほっそりと締め上げたコルセットと美しく重なり合うレースのひだの下に隠れ、彼女の胸が自由に羽ばたいているのを感じるからだろうか。シャーロック・ホームズシリーズ「ボヘミアの醜聞」(1891)は、女性という性全体を圧倒するほどの美しさと知性を誇るアイリーン・アドラーなる人物が登場する。彼女の物語に特徴的なのは、常人より何千歩も先を行くホームズが唯一敗れた女性

松下さちこ|わたしは夢見る「博物画」

 胸躍らせる人々の群れを抜けると、モーヴ街7番地「スクリプトリウム」に写字室が立ち現れていた――。新たな入居者である松下さちこ様の作品は、科学的記載を重視した「博物画」のような簡潔な表現で描かれながらも、豊かな感情が見出される植物や鉱物、生物と、生命を宿した書き文字(カリグラフィ)が見事に融合しています。  2023年9月霧とリボンにて開催予定の個展《惑星の花びら(仮)》の序章となる作品群をお楽しみください。  太陽のような薔薇として咲く「自己」、思惑の雲の涙、結晶となっ

Belle dea Poupee|クリスマスパーティーの後ろ姿

 Belles des Poupeeさまの制作するヘアドレスは、いつでも少女の夢を叶えてくれる。クリスマスパーティーの招待状を眺めながら、今年は何を着ていこう。 *  足元軽くパーティー会場まで駆けていきたくなるようなキャノチエ — カンカン帽 — 。藤棚のように濃いモーヴ色が、淡い菫の花にふわりと被さる。  冬の静かな空気を思わせる、爽やかな装い。大ぶりのリボンは、後ろ姿を鮮やかに演出してくれます。 *  チャコール地が、暖かく居心地のよい部屋のように包み込む。耳