マガジンのカバー画像

LIBRARIAN|嶋田青磁の小部屋

25
モーヴ・アブサン・ブック・クラブの司書、嶋田青磁の小部屋。詩人・フランス文学修士課程在籍。専門は19世紀フランス詩。学部在学中にピエール・ルイス『ビリティスの歌』に出会い、詩の魅…
運営しているクリエイター

#霧とリボン

二人展《空はシトリン》|永井健一&影山多栄子|春から生まれしもの

 初夏は幻のように過ぎ去り——まるで生きとし生けるものすべてがじっとわたしたちを見つめているような暑さのなか、本展は幕を上げる。  この熱暑はまぎれもなく、今は遠き〈春〉が産み落としたものである。春は、冬の間ねむっていた生命がいちどきに噴出する季節であって、そこで生まれた命は一直線に、だが静かに夏へと向かってゆく。  本展メインヴィジュアルのひとつ《私の知らない林》に描かれている、煙る記憶のなかに通り過ぎる子どもたち。その幻想は、汽車の窓から眺める景色のように、あっという

二人展《空はシトリン》|影山多栄子|白く、やさしい幻想

 日常を生きていて、ふと「ここにはいない誰かさん」を思うことがある。  その「誰かさん」がほんとうに存在するのか、何者なのか——そういった問いはたぶん、あまり意味がない。でも、小さいとき「誰かさん」はいつも側にいて、もっと身近に実感していた気がする。  宮沢賢治『小岩井農場 パート9』は、こうした精神世界の友だちを唄った詩ではないかとわたしは思う。  影山多栄子氏はこの詩に現れる「ともだち」ユリアとペムペルを、人形作品としてみごとに表現されている。初夏に差し掛かる頃に降る

嶋田青磁|ある聖域について

*  わたしが初めて「霧とリボン」の店舗を訪れたのは、もう5年前になるだろうか。美しいものについて語ることすらできない環境、どうしようもない孤独の中、すがるような気持ちで硝子戸をくぐったのを今でも覚えている。  あれから、ウイルスの流行を経て、街中にある「実店舗」の多くが様変わりしてしまった。今まで当たり前のように立ち寄っていた書店、カフェ、服屋が、いつの間にか空きテナントあるいは見知らぬ店に入れ替わっていた。特にフランス語書籍専門の欧明社撤退などは、大ショックであった。

Under the rose個展|薔薇の花影でワルツを

 あたたかな光に包まれた薔薇のつぼみが、次々にほころび始める季節。  花影に耳を澄ますと、小さなワルツの調べが聴こえてくる……  アクセサリーブランド・Under the rose様の新作が、このたびオンライン個展《Hidden Garden Waltz》にて発表されます。  そして、本展はUnder the rose様の記念すべき初個展。ここヴィヴィアンズ百貨店において、作品と皆さまを繋ぐ「リボン」として、わたくし青磁にによる案内が、少しでもお役に立ちましたら光栄です。

SEIJI|書を捨てずに町へ出よう《1》|四国・四谷シモンドール巡礼記

 皆様は、四谷シモンというドール作家をご存じだろうか。  おそらく、現在日本にあるドール文化、球体関節人形というジャンルがここまで大きくなったのは、彼の創作活動のおかげであると思う。20世紀には寺山修司や唐十郎などの演劇と結びつき(実際、四谷シモン氏自身も女形として芝居に出演されていた)、どことなくアングラな雰囲気を漂わせていた「人形」ジャンルも、今では数々の大手メーカーが「キャストドール」として製品化し、専門のショップがいくつもあるなど、だいぶ明るい印象にはなった。いわば四