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二人展《空はシトリン》|影山多栄子|白く、やさしい幻想

 日常を生きていて、ふと「ここにはいない誰かさん」を思うことがある。
 その「誰かさん」がほんとうに存在するのか、何者なのか——そういった問いはたぶん、あまり意味がない。でも、小さいとき「誰かさん」はいつも側にいて、もっと身近に実感していた気がする。

二人展《空はシトリン》会場風景(以下同)

 宮沢賢治『小岩井農場 パート9』は、こうした精神世界の友だちを唄った詩ではないかとわたしは思う。

 影山多栄子氏はこの詩に現れる「ともだち」ユリアとペムペルを、人形作品としてみごとに表現されている。初夏に差し掛かる頃に降るやさしい雨のように、二人の白き幻影は、わたしたちにそっと寄り添ってくれるようだ。

ユリア
ペムペル

 「りすは横切る」と題された人形は、天真爛漫で無垢な表情が愛らしい。題材となった詩には、「色鉛筆」「すべる」といった多く言葉があることから、わたしには色鉛筆がキャンバスの上を縦横に駆け回り、ひとつの景色を生み出してゆく光景がふっと浮かぶ。

 もしかすると、創作の手助けをしてくれる妖精って、こんな姿かもしれない。

 人はなぜ人形に安らぎをおぼえるのか。
 影山多栄子氏のつくる人形たちは、宮沢賢治の詩と組み合わさることで、この本質的な命題を解いてくれる気がしてならない。

会場風景写真|霧とリボン

影山多栄子|人形作家 →Blog
山吉由利子(球体関節人形)、宮崎優人(市松人形)に人形制作を学ぶ。石粉粘土と布を中心に様々な素材を使い、ひとりひとり違うお話を感じさせるような可愛らしさと不思議さを持った人形作りを心がけています。[個展]2003年 「うきわ」ギャラリー古桑庵、2004年 「まくら」ギャラリーNonc Platz。以後数年おきに個展を開催。ほか企画展、グループ展など多数。2007年創作人形専門誌「Doll Forum Japan 49号」表紙掲載。2018年 作品集「遠くをみている」発行。

嶋田青磁|詩人・フランス文学修士課程在籍 →note
学部在学中にピエール・ルイス『ビリティスの歌』に出会い、詩の魅力に憑かれる。19世紀末の頽廃・優美さを求め、研究の傍ら詩作活動中。オンライン上のストリート「モーヴ街」では、図書館「モーヴ・アブサン・ブック・クラブ」にて司書をつとめている。



作家名|影山多栄子
作品名|わたくしの遠いともだちよ(ユリア or ペムペル)

肩まで石粉粘土・アクリル絵具・布・ポリエステル綿・ガラスペレット・ビーズほか
*何かにもたれ掛からせて座らせてください。

作品サイズ【ユリア】|身長29cm/座高18cm
作品サイズ【ペムペル】|身長28cm/座高17cm
制作年|2022年(新作)
*オンラインショップに別ショットの画像を掲載しています

【左】ユリア/【右】ペムペル
ユリア
ユリア
ペムペル
ペムペル

作家名|影山多栄子
作品名|りすは横切る

顔のみ石粉粘土・アクリル絵具・布・ポリエステル綿・ガラスベレット・ビーズほか
作品サイズ|身長24cm/座高17cm(耳を含む)
制作年|2022年(新作)
*オンラインショップに別ショットの画像を掲載しています

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