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LIBRARIAN|嶋田青磁の小部屋

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モーヴ・アブサン・ブック・クラブの司書、嶋田青磁の小部屋。詩人・フランス文学修士課程在籍。専門は19世紀フランス詩。学部在学中にピエール・ルイス『ビリティスの歌』に出会い、詩の魅…
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#創作人形

三人展《シェイクスピアの妹たちの部屋》|書斎|Miss Moppet Dolls

 書斎とは、わたしたちにとってどんな場所か。隠れ家、仕事部屋、あるいは読書室? なんにせよ、書斎という場所と〈孤独〉の間には決して解けないリボンの結び目が存在する。書物を愛するわたしたちが理想とする書斎、そこにあるべきものは、例えば重厚なヴィクトリアン・スタイルの書棚、カーテンの向こうから聞こえる風の音、書き心地のよい筆記具——など、挙げはじめたらきりがない。  でもきっと、いちばん必要なのは、静けさだ。室内に漂う菫色の憂いと、思考をやさしくかき混ぜる静けさ。ヴァージニア・

二人展《空はシトリン》|永井健一&影山多栄子|春から生まれしもの

 初夏は幻のように過ぎ去り——まるで生きとし生けるものすべてがじっとわたしたちを見つめているような暑さのなか、本展は幕を上げる。  この熱暑はまぎれもなく、今は遠き〈春〉が産み落としたものである。春は、冬の間ねむっていた生命がいちどきに噴出する季節であって、そこで生まれた命は一直線に、だが静かに夏へと向かってゆく。  本展メインヴィジュアルのひとつ《私の知らない林》に描かれている、煙る記憶のなかに通り過ぎる子どもたち。その幻想は、汽車の窓から眺める景色のように、あっという

二人展《空はシトリン》|影山多栄子|白く、やさしい幻想

 日常を生きていて、ふと「ここにはいない誰かさん」を思うことがある。  その「誰かさん」がほんとうに存在するのか、何者なのか——そういった問いはたぶん、あまり意味がない。でも、小さいとき「誰かさん」はいつも側にいて、もっと身近に実感していた気がする。  宮沢賢治『小岩井農場 パート9』は、こうした精神世界の友だちを唄った詩ではないかとわたしは思う。  影山多栄子氏はこの詩に現れる「ともだち」ユリアとペムペルを、人形作品としてみごとに表現されている。初夏に差し掛かる頃に降る