はつメモ#10:R.O.D-READ OR DIE-
2000年初期に作られた、アニメファンの中でも知る人ぞ知る、とても評価の高いOVA作品です。
アニメがお好きな方よりも、アニメーターを志している方は見て損の無い"必見のアニメだと断言"します。
僕がお話しするのはあくまでOVAの方になるので、その続きとなるR.O.D the TV(トワイライトヴェノムではない)はあまり話しに出ません。その辺お知り置きください。
当時の時代背景を元にアニメを作ると云う目線での語りになります。
R.O.Dとは? 〜概要と主要スタッフ陣〜
R.O.D-Read Or Die-はメディアミックス展開された作品群でそれぞれ小説、コミック、OVA、CDドラマ、TVシリーズとあります。
OVAシリーズは全3巻あり、2001年から2002年にかけて発売されました。
文系美少女(?)スパイアクションと言う謎のジャンルで謳われた本作はどちらかと言えば海外の評価が高く、2002年にカリフォルニアで行われたアニメエキスポでも紹介され原作者、監督、キャラクターデザインの3名が呼ばれた程です。
ここで先にスタッフ陣のご紹介をします。
原作及び脚本は倉田英之さん。あの黒田洋介さんと同じスタジオオルフェに籍を置く方です。
後年に於ける有名な作品はガン×ソード、神のみぞ知るセカイ、ゴブリンスレイヤー等のシリーズ構成をされている方です。
監督は舛成孝二さん。超ベテラン演出家、監督として元々有名なお方です。本作前にはラムネ&40のOVA、セイバーマリオネットR、フォトンの監督として、演出としては数多くやられており個人的にジョジョ第3部OVAの10話、ダービーザギャンブラーの回は神がかった演出と思います。
キャラクターデザインは石浜真史さん。
本作がキャラクターデザイン初となります。元々はアニメーターですが後年ではペルソナ5のアニメの監督や、絵コンテ、演出もやられているそうです。
更にガジェット系のコンセプトデザインに、トライガンのメカニック等プロダクトデザイン系に定評のある神宮司則之さん。
美術は、ぼくなつシリーズやカウボーイビバップ、ハガレン等様々な作品を手掛ける有限会社草薙(現在は株式会社)。
そして恐らく相談役っぽい所に、逮捕しちゃうぞのデザインで有名な中嶋敦子さんが加わっています。
これだけ聞いても「なんだかスゴい人たち(当時)」が集まってる感じがしますよね。
そして最も広く認知されていそうなのが曲です。
岩崎琢さん、と言ってもお分かりにならないと思いますが、こちらの曲を作られた方です。
珍獣ハンターイモトのテーマと広く知られているこの曲は、このアニメが元です。
本作に於いても、テレビバラエティで良く使われている曲があります。
これがOPです。
良く流れている気がする曲がこれら。
R.O.Dは音楽に対しては悪く言う方がほぼ居らず相当高評価だった事も人気のひとつだったように思えます。
ちなみに制作会社は老舗スタジオディーン。
逮捕しちゃうぞ、るろうに剣心や最初のハンター×ハンター等、幅広くやられている会社でした。
(TVになるとJ.C.STAFFに変わっています)
〜あらすじ〜
※冒頭
突如、ホワイトハウスが何者かによって襲撃される。
この世のものとは思えぬ異能力によって瞬く間に壊滅し、恐れ慄く合衆国大統領へ向かって男が訊く。
「ここは図書館じゃねぇのか?」
「違う」と答え、去っていく男に対して振り絞る声で問う。
「なんだ、お前は!?」
それに男はキセルを燻らせながら、一言放った。
「偉人だ」
所変わり、部屋の全てが本で埋め尽くされた中で電話が鳴り響く。
あちこちに「ねねね」からの付箋が貼られた本をかき分けて受話器を取る女性。
本作の主人公、読子リードマンである。
神田神保町で非常勤講師の仕事をしながら読書三昧の自堕落な生活を送っている活字中毒のビブリオマニア(蔵書狂)だ。
いつもの本漁りを馴染みの街で行っていた時偶然ひとつの本と出会う。
恍惚な顔を浮かべながら本に頬擦りしている矢先、巨大昆虫にまたがる謎の男に襲われる。
彼女の「紙を自在に操る能力」で撃退した後、ジョーカーと呼ばれる英国紳士と再会を果たす。
「読子…、いや、ザ・ペーパー。同行してください」
世界の危機が起ころうとしていると。
彼女、読子は本好きの非常勤講師であると同時に大英図書館特殊工作部に所属し「ザ・ペーパー」のコードネームを持つ凄腕エージェントだったのである。
ある日、アメリカ議会図書館が何者かに襲撃され大量の稀覯本(きこうぼん)が盗まれる事件が発生した。
犯人は「偉人」名乗り、図書館を襲った者がエレキテルの平賀源内である事。読子が遭遇した昆虫使いが昆虫記で有名なファーブルである事が判明。
更に奴らが異能者であると云う状況を鑑み大英図書館特殊工作部は稀覯本奪回作戦を立案、その遂行を同様に特殊能力を持つ読子とサポートスタッフに指示する。
その本が一体なんなのか、何故稀覯本を狙うのか。
偉人たちはなにを企んでいるのか。
多くの謎が渦巻くまま、
世界の存亡を掛けたミッションが始まる。
※引用と自分の言葉が入り混じっての紹介です。
〜本作品の魅力について:キャスト〜
R.O.Dの声優陣はなかなか面白いと思います。
一時期「声優ではない方の声の出演」と云うTwitterがあり、その中に本作もありました。
読子リードマンの声は三浦理恵子さんです。
僕は後年の特命係長のイメージしか無いですが(笑)
僕には彼女の凄さは分かりません。ただ1970年代生まれのアニメファンは歓喜したと話しに聞いています。
声のお芝居が上手いとは言えないけど読子と云うキャラクターの雰囲気は"あの声"で完成するとは言い切れます。
脇を固める方も素晴らしく、準主役のナンシーに根谷美智子さんのセクシーなお声とお芝居は本当に良い。
他も声優の経験は少ないが舞台経験がお有りの方を抑えていて、とにかく声が良いと云う点では僕はアリだと思う。
もちろん声優さんも居ます。そこに面白い共通点がありました。
ジョーカー、郷田ほづみさん。
三蔵法師、高橋広樹さん。
ファーブル(幼年期)、竹内順子さん。
これで分かったらかなりのアニオタです(笑)
ハンター×ハンターでそれぞれレオリオ、ヒソカ、ゴンの声をされていた声優さんです。
これは偶然ではなく制作会社が同じなので、そこから引っ張って来たものかと考えられます。
〜本作品の魅力について:演出〜
R.O.Dはちょうどセルアニメーションとデジタルアニメーションの過渡期に制作されたもので、CGに代表される様々なデジタル技術が施されています。
本来なかなか予算上出来ない効果を、監督たちのアイデアによってふんだんに取り込んだ為細かな部分にまで「こだわった細工」が為されています。
例えば、冒頭の読子の部屋のシーン。
ブラインドから光が射し込むと現実では"埃の粒子"が映るはずです。
ましてや彼女の家は本屋敷。つまり埃が溜まりやすい。
だから演出上は必然ですが、それをセルで表現するのは至難の技です。
そう言う細かい部分で、より現実に即した自然な舞台を整えて居る事がひとつの魅力であると言えます。
また本作はアクションモノとして定評があり、かなり細かく動きます。それはアクションだけでなく表情、挙動の機微についても同様で、それも監督の「自然な芝居」の一環であり特色でもあると思います。
舛成孝二監督はそう云った心理描写を絵に映す事がとても素晴らしい方です。
動きと云う面では、動画枚数もひとつの指標です。
まずアニメーションと云うのは「言わばパラパラ漫画の集合体」と云う認識を持ってください。
当時テレビシリーズで約3000枚の動画が標準と言われていました。
このR.O.Dの1話に関しては約12000枚程使われたと言われています。
OVAは元々高いクオリティで制作されるのは当然ですが、それは既にテレビシリーズで人気を博しているものに適用される事が多く、新企画でここまでするのは相当です。
動画は原画を元に、原画マンがコマを振って(確か当時は1秒24フレームくらい)中割りと云う部分を動画マンが作ります。
動画も基本的には単価上の問題で海外(中国や韓国)に撒きますが、本作は国内で動画撒いている総数が多い。
海外に撒く時メリットは仕上がる速度ですが当時はクオリティに難がありました。テレビアニメを見て「明らかに絵が崩れている」ものを見た方もいらっしゃると思います。
だから結果、チェックした後に手直しをしたりリテイクが多かったりしています。
国内が最高とは一概に言えませんが大事なパートを国内でと云うのは、恐らく今でも第1話では行われている手法だと思います。
R.O.Dは2000年初頭の今も尚続くアニメ大量生産時代の草分けの段階で出来たものですし、海外に撒きまくると国内の動画マンが育たず昇華しづらい現状もありましょう。
今、中国も韓国も素晴らしいクオリティのアニメを独自に作って輸出しているのは、この辺の事があってだと僕は思います。
枚数が多いと云う事はカット割も多い事になります。
またトメ絵(1枚絵をカメラワークで見せる)に対しての印象付けもだいぶ変わってきます。
細かく動く事ではジブリ作品もそうですね。
でもあれは映画でありスポンサーが居ます。
そう云う意味でも本作は稀有なものであったのかもしれません。
それはアニメバブルの象徴でもあります。
シナリオ自体はかなり突飛な部類で、1話から徐々に失速感は否めないと言えます。それは1話に時間をかけ過ぎた余り後続が追われるように造られた背景があるからと考えられます。
だから僕は「1話だけでも見てくれ!」と云う気持ちで書いておりますが、2話3話も面白くないわけではありません。
特に、後に数年経たずに制作されるテレビシリーズ版を視野に入れてらっしゃるなら「見ないと納得しない設定」もあるからです。
〜本作品の魅力について:作画〜
アニメーターを志している方に見て欲しいと僕は言いました。その答えがここにあります。
本作はカットによっては絵の雰囲気が変わる事があります。
アニメーションは人の手で作られていますから、全く同じ絵にはなり得ずそこをキャラデないし作画監督が修正する事で一定的な統一感を出しているのです。
しかし本作は3作通じてゲストのような超有名なアニメーターが原画に名を連ねていて、その人のタッチで採用されているものが結構あります。
スタッフロールを見て欲しい、と僕は言いたい。
日本のアニメーターのドリームチームと言っても良い。
以下は僕が認知している方たちです。
松竹徳幸さん(OPもこの方、テイルズオブファンタジア、ディスティニーのアニメパート、メダロットのキャラデザ)
鈴木博文さん(ナルト、キャラデザで作画監督)
鉄羅紀明さん(ソウルテイカー、メカデザ)
長谷川眞也さん(少女革命ウテナ、キャラデザ)
後藤圭ニさん(機動戦艦ナデシコ、キャラデザ)
村田俊治さん(ヘルシング、キャラデザ)
梅津泰臣さん(ZガンダムOP.ED全作画)
尾石達也さん(化物語シリーズディレクター)
中谷誠一さん(ガサラキOP、ベターマンED、ガンダムOOメガデザ)
覚えてるだけでこれだけ。
当時でさえ凄まじい才能の面々が1つの作品に名を連ねていると云うのは異例中の異例だと思います。
魅力的なアニメーターの要素として大切なのは絵の巧さではなく「画の巧さ(見せ方の巧さ)」だと感じました。
どれが誰とまでは独特なタッチでない限り分かりませんが、目を見張るカットが所々にあるのがR.O.Dの隠れた魅力であると僕は感じます。
〜最後に〜
普通、好きなアニメはストーリーやキャラクターで抑えるものです。
たっぷり世界観や設定の考察を交えつつだと思うのですが…僕は僕のスタイルで、初めてガッツリ語らせて頂きました。
僕も若き日はアニメーション業界の人間でしたので、その目線です。DVDも自宅にあります。
元々、言った手前あまり書く気はありませんでした。
R.O.Dはそれだけ思い入れの強いアニメですが知っている方はなかなか居らずら愛を超えた余りある情熱を持って是非知って欲しい作品である反面コア過ぎてどなたも付いてこれない気がしたからです。
故に恐らく読み手を選ぶであろう記事になったと感じます。
あわよくば多くの皆さんに読んで頂きたい。
もしご存知なら語りたい、と云う気持ちです。
最後にこの記事を書くに至る後押しを頂いた、
竹乃子椎武さんに心から感謝を致します。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
追加。
番外編作りました! 宜しければご覧下さい。