見出し画像

【エッセイ】彼氏が元カレになった

まだ暑さの残る9月末。
9月の30日。

この日、私は彼氏と別れた。
1週間後は、7年記念日だった。

1人で歩く帰り道。
いつも送ってくれた彼が隣にいない。

悲しい。
苦しい。
涙が止まらない。


"彼氏"が、"元カレ"になった。




恋人って不思議な関係性だ。
「付き合おう」と言えば恋人関係が始まり
「別れよう」と言えば終わる。

結婚のように関係性を証明する書類だって、
結婚指輪のような物体だって明確にはない。

口約束で始まって、口約束で終わる。
不思議だ。
こんな曖昧なもので私たちは結ばれていたのか。


この決断が正しかったのか、正直分からない。
少し…いや、かなり後悔している。

好きだった。
今だって好きだ。

でも、それぞれの優先するものを
どうしても譲ることができなくて。

私は、ひとりの時間。
でも彼は2人での時間を優先したくて。

どうしてもその価値観の差を
埋めることができなかった。

なんて贅沢な悩みなんだろう。
友達が聞いたら呆れるかもしれない。
でも、不安要素が拭いきれなかった。


私は趣味が多い。
推しはアイドルグループだし、俳優だって好きだし、ドラマに映画に舞台だって好き。

それを人に布教しようとは思わないタイプだ。
むしろ"好きを押し付けてしまった"という
罪悪感が募ってしまう。

だから私にとってひとり時間は必須で。
しかし彼は真逆タイプで。
その感覚の違いがどうしても変えられなかった。


しばらく間、冷戦状態が続いていた
彼との関係性を変える決断をしたのが
数週間前のこと。
それは彼にも伝わっていたようで。

「別れようと思ってここに来た」
そう切り出してきた彼。

同意して始まった話し合いで出した結論は
「好きだけど、別れよう。」

大号泣した。
もっと嫌な奴なら
清々しく別れることができたのに。

ガヤガヤした店内に鼻水をズズっと啜る音が2つ。
客観的に見るとかなりシュールだ。
いま入店した人は間違いなくハズレくじを引いたと思うだろう。

向かい合う号泣する男女。
うわぁ〜修羅場だ。

そんな視線をヒシヒシと感じる。
ああ、目立つのは大嫌いなのに。
確実に注目を浴びてしまっている。


今までの思い出が走馬灯のように蘇ってきた。
楽しいも、悲しいも、嬉しいも苦しいも
いっぱい共有してきた。

6年間という歳月を断ち切るには
彼はあまりにも"良い奴"で。

もう隣に彼がいることが普通じゃないんだ。
その現実をすぐに受け入れることができない。
隣にいることが当たり前だったのに。

その事実が、重い。
信じられなくて、受け入れられない。



"彼氏"という存在が「別れよう」の一言で
一瞬で、いとも簡単に"元カレ"になった。

こんなにもあっけないものなのか。

今まで話せなかった色んな話をした。
好きだったこと、嫌いだったこと。

こんなに泣いている彼をみたのは初めてだ。
涙混じりに話す「好きだった」の言葉に
決心が揺らぎそうになる。

色んなところに行ったな。
色んな話をしたな。
駄目だ、楽しい記憶ばっかり出てこないで。


別れる、なんて選択肢が私たちの間にあるなんて大学生のあの頃は想像もしなかった。


本当に私には勿体ないくらいに良い彼氏だった。
重荷に感じる自分に自己嫌悪することが増えた。
それが辛かったし、悲しかった。

1人で歩く帰り道、再び涙の波が訪れる。
やっぱりこの決断は間違いだったのかも。

もう2人でドライブに行くこともないのか。
カフェでダラダラ喋ることもなくなるのか。

悲しいなぁ。

学生時代から、ずっと一緒だった。
相手の考えてることが分かるぐらいには
長い付き合いだった。

だからこそ価値観が合わないことも
薄々分かっていて。
それでも認めたくなくて
何ヶ月、いや何年も目をつぶっていたんだろう。



マカえんが流れ、
羊文学が流れ、
サウシーが流れる店内。

よりによって私たちの青春ソング…。
一気に大学生活が蘇ってくる。

サークル終わりに一緒に帰る時間も
空きコマに部室で喋る時間も
たまたま校内ですれ違ったりしたのも
全部が楽しかった。キラキラしてた。

あの頃は楽しかったなぁ。
涙が更に止まらない。


泣き腫らした顔で店を出た。
明日は腫れが収まっていたらいいね。

ありがとう。大好きだったよ。
幸せになってね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?