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「DeepSeek問題」知ったかぶりになっていませんか❓3つのポイントに分けて、誰にでもわかるように解説します。🔰

「DeepSeek問題」は、決して中国企業の悪さや危険性のみを示す話ではありません。むしろ今後、他の国・他の企業のAIモデルでも同じような議論が繰り返されるでしょう。ぜひ、この機会に「国際的な視点」「AIサービスの仕組み」「データ管理の知識」を深め、AI時代を生きるヒントにしていただければと思います。


そもそも何が「DeepSeek問題」なの?

皆さんは「DeepSeek(ディープシーク)」というAIサービスや言語モデルの名前を聞いたことがあるでしょうか。近頃、このDeepSeekについて「中国企業だから危険かもしれない」「データが勝手に抜かれる」「天安門事件と入力したら応答してくれない」など、さまざまな噂がネット上を飛び交っています。ニュースやSNSで話題になっている場面を見かけた方もいらっしゃるかもしれません。

実は、こうした噂や議論は一つのトピックにとどまりません。中国企業かどうかという“国家レベル”の問題と、AIチャットサービスそのものが抱える“データ管理”や“バイアス”の問題、そしてそもそもの“言語モデル”というテクノロジーの仕組みがごちゃ混ぜになり、結果として「DeepSeekって危険なんでしょ?」「いや、安全に使えるんじゃないの?」と意見が大きく分かれているのです。

なぜ混乱が起きるのか?

ここで誤解しやすいポイントの一つが「言語モデル(エンジン部分)」と「AIチャットサービス(使いやすくパッケージ化したアプリやWebサービス)」の違いです。

たとえば、アメリカのOpenAIが開発している言語モデルは「GPTシリーズ」。このGPTシリーズを搭載し、私たちが日常的に使いやすい形で提供されているのが「ChatGPT」です。車にたとえれば、「GPT」がエンジン(言語モデル)で、「ChatGPT」というサービスがそのエンジンを積んだ“完成車”というイメージになります。


「ChatGPT(AIチャットサービス)」を例に解説します。
ブラウザ版の「DeepSeek」や、「DeepSeek」アプリも、『AIチャットサービス』
「DeepSeek-V3」「DeepSeek-R1」が言語モデルです。
言語モデル「DeepSeek-V3|R1」は、APIのように切り離して使うことができます。
つまり、中国製の車は危ないかもしれないけど、エンジンは関係ないよね、という話。

DeepSeekの場合は、この“エンジン”となる言語モデルがオープンソース(OSS)の形で公開されています。つまり、世界中の研究者や開発者が自由にダウンロードして、自分たちの環境にインストールし、改良や独自カスタマイズができるわけです。ところが、それとは別に公式のDeepSeekアプリやブラウザサービスも存在し、そこでは中国の企業サーバーが使われているとされます。ここで「中国サーバー=危険」というイメージにつながり、「モデル自体が危ないのか?」「いや、OSSなら大丈夫じゃないのか?」と、混乱が起きるのです。

「DeepSeekは危険」の本質

確かに、公式のDeepSeekサービスをそのまま利用すると、入力したデータや会話履歴が中国国内のサーバーに保管される可能性があり、機密情報が洩れるリスクが指摘されています。

一方で、DeepSeekの言語モデルを「自分でホスト(自社サーバーや第三者のクラウドを使って動かす)」すれば、必ずしも中国にデータが送られるわけではありません。実際に、アメリカ企業であるMicrosoft Azure上で動かせる環境が公開されたり、Perplexityなどの主要サービスに組み込まれたりしており、「中国に依存しない形でDeepSeekを活用する」事例も増えています。こうなると「本当にDeepSeekが危険なの? ただの誤解じゃないの?」という声も出てくるのです。

アメリカ製は安全なの? と問われても…

もう一つ、議論をややこしくしているのが「アメリカ製のサービスであれば安全なのか?」という話題です。たとえばChatGPTはアメリカのOpenAIが運営していますが、厳密には利用規約にデータの扱い方が書かれていたとしても、私たちが完全に裏側を確認できるわけではありません。「アメリカ企業だから信頼できる」という意見もあれば、「いや、国家安全保障を理由にデータを開示するなんてこともあるかもしれない」といった不安をもつ人もいるでしょう。

日本の企業や日本政府がAzureやAWS、GCPといったアメリカ系のクラウドサービスを採択しているのは、「国としてのアメリカを一定程度信頼している」「世界的にも大きな実績がある」などの理由が背景にあります。しかし一方で、ゼロリスクではないことも事実。「どこまでリスクを受容できるか」という観点で、各組織や個人が使うサービスを選んでいるとも言えます。

“国家レベル”と“AI技術”と“リスク管理”が混同している

DeepSeekをめぐる議論は、大きく分けると以下の三つが混在しているように見えます。

  1. 国家レベルの論争
    「中国企業を信用できるか?」「アメリカなら絶対安心?」といった、国際政治や外交、法律に関連する問題。

  2. AIチャットサービス全般のリスク
    データ漏えいの可能性や、AIによる誤情報の拡散、バイアス(偏見)など。これは中国製かアメリカ製かにかかわらず、あらゆる大規模言語モデルで起こりうる問題。

  3. 言語モデルの構造的な話
    DeepSeekやGPT-4のように“モデル”そのものがオープンに公開されていれば、ユーザー自身が手元で運用する(オンプレミスやAzureなど)手段がある。
    逆に、モデルがクローズド(独自技術で非公開)でも、便利なAPIやアプリがあれば簡単に使えてしまう。
    ここにOSS(オープンソースソフトウェア)的なメリット・デメリットも入り混じってくる。

この三つが一緒くたになって「DeepSeekは中国製だからやばい」「OSSだから危なくないでしょ?」などと意見が交錯し、「結局どれが本当なの?」と混乱が生まれています。

本記事の狙い:3つのポイントをひも解く

そこで本記事では、先ほど挙げた三つの側面――

  1. 言語モデル vs サービス

  2. 中国製 vs アメリカ製

  3. リスクとリターンをどう考えるか

これらを順番にひも解き、「DeepSeek問題」を正しく理解していただくことを目的としています。なぜDeepSeekが危険だと言われるのか、あるいはなぜ一部では「意外と大丈夫だよ」という声が上がるのか。その理由をできるだけわかりやすく説明していきたいと思います。

「AIって面白そうだけどよくわからない」という段階であっても、この記事を読むことで「なるほど、こんな風に整理すればいいのか」と思っていただけるような構成を心がけています。



第1のポイント:言語モデルとAIチャットサービスの違い

1-1. まず「言語モデル」ってなに?

私たちが今、日常生活やSNSなどで見かける「ChatGPT」「DeepSeek」などのAIチャットシステムは、実は“言語モデル”と呼ばれるエンジン(仕組み)が中で動いています。この「言語モデル」というのは何かというと、大量の文章データから言葉のつながりやパターンを学習し、人間が入力した文章に対して返事を生成するシステムです。

例えば

  • ゲームでキャラクター同士が会話するスクリプトを大量に読み込む

  • インターネット上のブログ記事や書籍データ、ニュースサイトのテキストを学習する

  • その結果、「こんな言葉が来たら、こんな言い方をするのが自然だ」と統計的に判断する

こうして覚え込んだ仕組み(モデル)が「あなたの質問に対して、最も自然に見える答えを推定して返す」というのが言語モデルの基本的なはたらきです。あくまで「言葉のパターン」を分析・予測しているので、「感情がある」とか「自分の意志がある」というわけではありません。人間のように自ら考え、価値判断をしているわけではないのです。

1-2. 車にたとえる「言語モデル」のイメージ

よく言語モデルは「車のエンジン」に例えられます。車が実際に道路を走るためには「エンジン(動力部分)」が必要ですが、エンジン単体だけあっても乗れませんよね。そこにボディ(車体)や運転席、タイヤ、制御するコンピュータなど、さまざまなパーツが組み合わさって“車”として成立します。

  • エンジン(言語モデル)
    大量の文章データを学習して、「入力された文章に対して適切な文章を返す」ための核心部分。

  • 車体(UI/アプリ/ブラウザサービス)
    実際に乗るための空間、見た目、操作系。ユーザーが実際に触る部分にあたります。
    AIチャットの例では、Webブラウザ上で質問を打ち込む画面や、スマホアプリのチャット画面などがこれに相当します。

車でいうと「同じエンジンを積んでいても、車体のデザインや性能が違うと、乗り心地もスピード感も大きく変わる」ように、言語モデルが同じでも、どういうサービスがそれを利用しているかによって使い勝手や安全性、データの扱いは変わってきます。

1-3. 「AIチャットサービス」とは何か?

言語モデルを組み込んでユーザーが会話できるようにしたアプリやWebサービスのことを、ここでは「AIチャットサービス」と呼びます。具体的には以下のようなものです。

  • ChatGPT
    OpenAIというアメリカの企業が提供するWebブラウザ上のチャット。
    GPT-4などの言語モデルを内部で使っている。

  • DeepSeek公式ブラウザサービス
    中国のDeepSeek社が運営するサイトやアプリ。
    DeepSeek-v3やDeepSeek-R1という言語モデルを使い、ユーザーが入力を送信すると返事を返してくれる。

  • Felo AI|Perplexity|ChatLLM(Abacus)
    独自の検索アルゴリズムと複数の言語モデルを組み合わせ、質問に答えたり解説したりしてくれるサービス。👇

要するに、「言語モデル」というエンジンを、ユーザーが利用しやすい形にまとめた“アプリ”や“サイト”がAIチャットサービスなのです。車の例でいえば、同じエンジンを使っていても、メーカーが違えば見た目も機能も違う車が作られるように、AIチャットサービスでは運営企業や国によってかなり特徴が異なる場合があります。

1-4. なぜ「言語モデル」と「AIチャットサービス」を分ける必要があるの?

「同じように会話できるんだから、どれもいっしょじゃないの?」と思うかもしれません。しかしここを区別しないと、「中国製の言語モデルだから危険」「いや、それをアメリカのクラウドで動かせば安全では?」といった話がごちゃまぜになってしまい、正確な判断ができなくなってしまいます。

  • 言語モデル自体が持つリスク

    • 学習データに偏り(バイアス)があった場合、そのまま差別的な表現や誤情報を出す可能性がある。(*例えば、DeepSeekは中国製の言語モデルなので「天安門事件」など特定の話題について回答できない)

  • サービスとしてのリスク

    • ユーザーが入力したデータが、運営企業のサーバーに保存・分析される可能性がある。

    • どの国の法律に従ってデータが扱われるのか(プライバシーや機密情報は守られるのか?)。

このように、「言語モデルの問題(性能やバイアス)」と「サービスとしての問題(データ管理・プライバシーなど)」は別軸で検討すべき、というのが大切なポイントです。

1-5. DeepSeekの“言語モデル部分”はオープンソース

DeepSeekの言語モデルでは、「DeepSeek-v3」「DeepSeek-R1」が有名です。これらはオープンソースで公開されているため、誰でも自由にダウンロードして自前のコンピュータにインストールし、動かしたり改造したりできます(もちろん、動かすには非常に高性能なコンピュータや複数GPUが必要になりますが)。

オープンソース(OSS)とは、「ソフトウェアの中身(ソースコード)や仕組みが公開されていて、誰でも利用・改良が許されている」状態のこと。たとえば、みなさんが使っているスマートフォンのOSにはAndroid(Google社が主導)というオープンソースのものがあり、多くの会社が自由にカスタマイズしています。

それと同じように、言語モデルの世界でもOSS化が進めば、世界中の研究者や開発者が連携してより高性能なモデルを作り上げたり、用途別に最適化したりできるのです。

なぜオープンソースが重要なのか

  • 誰でも検証や監査ができる
    → このモデルはどんなデータで学習されているのか、動作は正しいのかをチェックしやすい。

  • ライセンスが緩ければ“二次利用”もしやすい
    → 大きなモデルをベースに、自分専用の小さなモデルを作ったり、他のプロジェクトに組み込んだりしやすい。

DeepSeekの場合は「中国製だけどオープンソースなので、中国のサーバーで使わなくてもよい。自分たちで用意したサーバーやクラウドで動かせる」というメリットがあります。これが「言語モデルとしてのDeepSeekは、必ずしも危険じゃない」と言われる理由の一つです。

1-6. 一方「DeepSeekのブラウザサービス(公式)」はどうなる?

DeepSeek社(*社名=言語モデルなのでややこしい😢)は自社で公式のブラウザサービスやアプリを提供しており、そこを通じてユーザーが質問や会話をすると、中国の法律に従って中国国内のサーバーにデータが送られます。ここで「中国に情報が抜かれるかも……」という話が出てくるわけです。

*実際、公式のアプリやブラウザサービスに入力した文章・ユーザーの登録情報は、そのまま中国の政府機関などに監視されると考えて差し支えありません。それくらい危険な利用規約になっています。

ここで重要なのが、「DeepSeekの言語モデルは使いたいけど、中国のサーバーにデータを送るのは嫌だ」というニーズに応える方法として、Microsoft AzureやPerplexityなど、第三者のクラウドやサービス上でDeepSeekのモデルを動かすという選択肢があることです。

例:Azure上でDeepSeekモデルを動かす(*MS社が提供)

これにより、「DeepSeek=中国サーバーを使う」という図式から外れることができるのです。つまり、“エンジン”は中国製でも、実際の“車体”や“走らせる道路”をアメリカ製や日本のデータセンターでまかなうことが可能になるわけですね。

1-7. ChatGPTとの比較でわかる「サービスとモデルの違い」

「AIチャット」と聞くと多くの人がイメージするのが「ChatGPT」でしょう。ChatGPTも、内部でOpenAIが開発した「GPT-4」などの言語モデルが動いています。しかし、このモデル自体はクローズド(非公開)であり、私たちが自由にダウンロードして使うことはできません。

  • ChatGPT

    • 利用方法:公式Webサイトにアクセスし、アカウントを作ってログイン

    • モデル:GPT-4など。モデルの具体的な仕組みは非公開

この形だと、ユーザーはOpenAIが管理するサーバーにアクセスし、会話データがそのサーバーに送られます。DeepSeekで言う「公式ブラウザサービス」と同じ仕組みですね。「アメリカ企業のOpenAIだからなんとなく安全だろう」と思う人もいれば、「いや、アメリカ政府がデータを要求したらOpenAIが渡すかもしれない」と不安を覚える人もいます。

要するに、「どこの国のサービスか」よりも「信頼できる企業・組織か」「利用規約にどんな取り決めがあるか」が重要なのです。

1-8. どうして「サービスによる違い」が生まれるのか

ここまで述べたように、同じ言語モデルを使っていても「サービス」が変わると、データの取り扱いや利用規約、動作速度、追加機能が大きく変わります。これは車にたとえると分かりやすいでしょう。

  • 同じエンジン(言語モデル)
    たとえば“DeepSeek-v3”というエンジン。

  • 異なる車体・異なるメーカー(サービス運営会社)

    • DeepSeek公式アプリ(中国サーバー利用)

    • Microsoft Azure上でのDeepSeekモデル(アメリカのクラウド利用)

車でいえば、「エンジンの性能は同じでも、内装が豪華だったり、燃費がいい車体だったり、ブレーキやサスペンションが違ったりして、乗り心地や安全性、維持費は大きく変わる」ということです。ユーザーがどの“車”を選ぶかによって、エンジンは同じでも体験が全く異なるというのはAIチャットも同じ構造です。

1-9. まとめ:言語モデルとサービスをきちんと分けて考えよう

  • ポイント1:言語モデルとは、大量の文章からパターンを学習し、入力に応じて文章を生成する“エンジン”
    DeepSeek-v3やChatGPTの内部的なGPT-4は、この“エンジン”にあたります。

  • ポイント2:AIチャットサービスとは、そのエンジンを使ってユーザーが会話を楽しんだり、質問・要望に応じた回答を受けたりできる“アプリ”や“サイト”
    DeepSeek公式ブラウザやChatGPT、Perplexityなどがこれに相当。

  • ポイント3:オープンソースかどうか、サーバーの場所はどこか、利用規約はどうなっているか、などによって「危険度」「使い勝手」「自由度」が大きく変わる

    • DeepSeekは「言語モデル自体はOSS」であり、中国以外の環境でも動かせる。

    • ただし「DeepSeek公式サービス」は中国サーバーが基本。

    • ChatGPTは「エンジン(GPT-4など)はクローズド」でダウンロード不可、API利用は可能。利用規約に基づいてOpenAIが管理。

この第1のポイントを踏まえるだけでも、「DeepSeek危険!」と聞いたときに“それは言語モデル自体の話なの? それとも公式サービスの話?”と切り分けて考えられるようになるはずです。次の章では、「中国企業だから本当に危険なのか?」という具体的なリスクと背景をさらに深掘りしていきます。


「DeepSeek」チャットサービスと、「DeepSeek」言語モデルを分けて考える必要がある。

第2のポイント:中国企業だから危険? それとも……

2-1. 「中国 = 危険」というイメージはなぜ広がるのか

皆さんがニュースやSNSで「DeepSeekは中国製だから危険だ」という話を耳にしたら、まず何を想像するでしょうか。多くの場合、「中国の政府や企業が個人や企業のデータを勝手に収集しているのではないか」「政府から情報開示を求められたら、企業は拒否できないのではないか」といった懸念が根底にあると言われています。

実際、中国の法律や政治体制を考えると、たとえば中国国内のサーバーに保管されているデータを政府が要求すれば、企業側は原則として拒めないという事実があります。これはアメリカやヨーロッパ、日本なども、国家安全保障や捜査目的であれば企業にデータ開示を求める法律はあるものの、中国の場合は法律の運用や国際的な監視体制が不透明だという点で、より警戒感を持たれがちです。

さらに、SNSで「中国製アプリを使うと個人情報が抜かれる」などの噂が出回り、事実以上に不安をあおるケースもあります。実際には、利用規約やデータ管理の仕組みをきちんと調べれば、どこまでが事実でどこからが憶測なのか分かってくる部分もあるのですが、「中国だからやばい」とシンプルにまとめられてしまうと、怖さが先に立ってしまうわけです。

*多くの中国製アプリが危険なのは事実です。

2-2. 「中国製モデル」だからこそ優秀な分野もある?

アメリカ企業が多くのGPU資源を有している現状に対する、カウンターとしての「コスパ重視」がDeepSeekの開発理念として語られることも多く、推論速度や動作環境に工夫があるという指摘もあります。大量のパラメータ(660Bなど)を保持しながらも、実際の推論時に使うパラメータは抑えめで、実際よりも軽く動く仕組み(MoE = Mixture of Experts)を採用しているため、「大きくて賢いのに動かせる環境は意外と限られない」というのが特徴です。

こうした技術的アドバンテージを評価する研究者や開発者にとっては、「中国製であってもOSSなら問題ない」「むしろ日本語や中国語の処理に向いているなら、積極的に使いたい」と考える人もいます。

2-3. DeepSeekは中国企業だが、使い方次第でリスクは変わる

ここまでのポイントを簡単に振り返りましょう。

  1. 公式サービスを利用すると、中国国内のサーバーを経由するリスクがある

    • これはデータ漏えい、当局への情報開示リスクなどがあり、企業や官公庁は慎重になる。

  2. しかし、言語モデル自体はオープンソースなので、Azureなど中国以外の環境で運用できる

    • これならデータが中国に行かない。NGワードも独自設定で緩和可能(ただし高度な技術が必要)。

  3. NGワード問題は現実として存在するが、OSSのメリットを活かせばある程度カスタマイズ可能

    • 公式サービスには制限があっても、自前ホスティングなら回答拒否の仕組みを変更可能。

  4. 中国企業であることへの不安は理解できるが、アメリカ製にもまったくリスクがないわけではない

    • 国家レベルの法律や監視体制の問題は、どの国でも程度の差はあれ存在する。

結局のところ、「DeepSeekをどう使いたいか」によって最適解は変わります。個人利用で雑談や翻訳を楽しむ程度なら、わざわざNGワードを突っ込んでテストする人はあまりいないでしょうから、公式サービスでも十分かもしれません。でももし企業の機密情報や個人情報を扱うなら、公式サービスではなくAzureやオンプレミス(自社サーバー)でホストする、あるいはDeepSeek以外のモデルを検討するほうが安心かもしれません。


まとめ

DeepSeekが「中国企業だから危険」と言われるのは、主に公式ブラウザ版を使うとデータが中国サーバーに送られるリスクがあるからだとわかりました。ですが、言語モデルの部分がオープンソースで公開されているため、必ずしも中国に依存する必要はありません。「中国製モデルだけど、日本やアメリカのクラウドで動かせるよ」という現状があるのです。

さらに、NGワード問題など政治的な側面は確かに存在しますが、オープンソースの利点を活かせば独自にフィルタ設定を変えたり、ファインチューニングを重ねることで、いくらかは回避できる可能性があります。もちろん高度な技術とコストが伴いますが、「危険だ」と一括りにしてしまう前に「どんな使い道で、どのサービス(ホスティング形態)を選ぶか」を考えるほうが現実的でしょう。

ここまでは主に「中国だから危険」と言われる理由と、それを否定する要素について整理しました。次章では、「そもそも国が違えばリスクが違うのか?」「アメリカ製サービスは無条件に安心なのか?」といった疑問をさらに掘り下げていきます。AIのリスクは国家要因だけでなく、企業の方針や技術仕様にも大きく左右されるため、その点を明確にしておくのが賢いAIとの付き合い方になります。

さまざまな論点があることを理解することが大切です。

第3のポイント:国家リスク? それともAIチャット全般のリスク?

3-1. 「中国 vs アメリカ」という二分法で考えていいのか?

これまで述べてきたように、「DeepSeekは中国企業だから危険」「ChatGPTはアメリカ企業だから安全」といった単純な対立構図が、ネット上の議論でよく見られます。しかし実際には、「アメリカ製だから本当に安全なのか?」と問われれば、必ずしもそうとは限りません。なぜならアメリカにも国家安全保障や法律の問題が存在し、政府が企業にデータ提供を要求することが不可能とは言えないからです。

例:アメリカと国家安全保障

アメリカには国家安全保障局(NSA)などの情報機関があり、テロやサイバー犯罪などの重大事案の捜査のために、IT企業やクラウド事業者にユーザーデータの開示を求める場合があります。

過去にも、米国政府が複数の企業に対して秘密裏に監視プログラムへの協力を要請していたと報道された例がありました。もちろん、その是非や法律手続きの正当性が問題視されて裁判になったケースもありますが、「アメリカのIT企業を利用しているならデータが絶対に安全」とは、断言しにくい側面があるのは事実です。

「国としての信頼感」の相対性

日本や欧州の多くの企業・政府機関がAzureやAWS、GCPなどアメリカ系のクラウドを採用しているのは、技術力や市場シェア、国際的な評判に加え、「中国よりはまだ信頼できる」というイメージがあるからです。中国とは政治体制が異なり、軍事や政治の透明性がより高いと考えられるアメリカを「まだマシ」と見ているとも言えます。

しかし、各国の法律や国際関係、外交上の駆け引きは常に変化しています。「絶対的に安全な国」というものは存在しないため、「二つに一つでどちらが安全か?」ではなく、「どこまでリスクを受容できるか」「なぜそこに信頼を寄せるのか」という観点で考えるのが大事です。


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