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「発達障害」って何ですか?

「生きづらさ」や「コミュニケーション能力」などと関連して、その要因としてよく挙げられるワードが「発達障害」です。
近年は「大人の発達障害」など、その言葉の使われ方が広がっています。

「発達障害」について有斐閣の「現代心理学辞典」で調べると、「構成概念であり、この語を用いる者の立場や用いられた時代によって、その意味は大きく異なる」とされています。

構成概念、つまり身長や体重のように直接目で見て観察・測定することができないため、心理学者が人為的に理論から導き出して作った概念ということです。(「知能」や「リーダーシップ」なども構成概念です)

心理学の用語は、使う人やシチュエーションによって意味が広がりがちですが、改めて「発達障害」とは何か、心理カウンセリングには何ができるのか臨床心理士でスクールカウンセラーとしても活躍している角井カウンセラーにお聞きしました。

角井 未央(かくい みお)大学と大学院で心理学を専攻し、大学院修了後に臨床心理士資格を取得。小学校、中学校、高校のスクールカウンセラーとしての勤務経験があり、保健センターでは母子支援にも従事。私生活では二児の母でもある。

「発達障害」とは

発達障害は、脳の機能的な問題から、社会生活に支障をきたしている状態のことです。

精神疾患の世界的な診断マニュアルである「DSM-5」では、「発達障害」は以下の7つに分けられています。

  • 知的障害(知的能力障害)

  • コミュニケーション障害

  • 自閉スペクトラム症(ASD)

  • ADHD(注意欠如・多動症)

  • 学習障害(限局性学習症、LD)

  • 発達性協調運動障害

  • チック症

また、2004年に成立した発達障害者支援法の第二条では、以下のように定義されています。

自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの

発達障害者支援法 第二条

さて、DSM-5の定義では7つに分類されていますが、こうした定義や分類はあくまで私たちのような専門職のためのものです。
日常生活で接するときには、分類について気にする必要はあまりないと私は思います。

また、発達障害は脳の機能の障害であって、本人の怠慢や保護者のしつけなどが原因ではないという部分も理解するうえで大切なことになってきます。

例えば、発達障害からコミュニケーションが苦手な人がいたとしても、「自分勝手だ」とか「わがまま」などと安易に考えるのではなく、本人も困っていることがあると理解することで、捉え方も変わってくるかもしれません。

スクールカウンセラーの現場において、「自閉スペクトラム症である」とか「ADHDである」といったような明確な表現、言葉の使い方はしません。

これは、私たちカウンセラーの仕事の仕方として、障害の分類ではなく、本人そのものを見ようとする傾向があるのだと思います。

また、発達障害についてはまだまだ間違った捉え方や勘違いがされやすく、言葉の使い方にはこちらも慎重にならなければいけません。
そうした背景から、診断名を直接的に使うことは避ける、という共通の意識があります。

加えて、学校は医療機関ではないので、診断名は使わず、その人の個性を見るという意識が大きいように思います。


どのように相談がくるのか

さて、「発達障害」について定義や分類を確認してきました。
では、どのような流れで「発達障害」にまつわる相談を、カウンセラーのもとに持ってくるのでしょうか。

幼少期は、「育てにくさ」や「子育ての難しさ」といったところから見つかるケースが多いです。

発語が一般的な時期よりも遅くなることや、何を考えているのかわからず、ずっと動き回っているといった悩みを抱えている保護者の声から発覚することがあります。

学童期(6〜12才)ですと、勉強面や友だち関係のつまずきで悩まれる保護者さんや、学校に行きたくないと本人が訴えることで発覚するケースもあります。

  • 先生の話を集中して聞けない

  • 先生の指示が理解できていない

  • 字を書くことに抵抗がある

  • 周りのざわざわした雰囲気にパニックになってしまう

  • 友人と合わず、苦しむことが続く

  • いつもと違う場面に遭遇すると混乱してしまう

周囲や、本人が抱えている様々な悩み事や困り事から、その人に発達障害があることが分かってきます。

中高生になると、「自分は発達障害があるのではないか」と、本人から直接相談されるケースもあります。

そういった場合、スクールカウンセラーは医師ではないため診断はしません。その代わり、話を聞いて学校生活での対策を考えたり、医療機関の受診を支援することもあります。


スクールカウンセラーができること

病院やクリニックなどの医療機関で、発達障害の診断を受けた方に対して、私たちカウンセラーができる支援は主に3種類です。

  1. 本人への心理支援

  2. 環境調整

  3. 保護者の方への心理支援

学校で行われる心理支援としては、まずは、「発達障害から起こる二次障害の支援」があげられます。
学校生活での困難さから生じる落ち込み感情や、不安な感情について、心理カウンセリングでサポートします。

うまく理解されないで悩んでいることや、学習意欲はあるのにうまく情報をキャッチできないこと、思ったように学習がすすまないこと、友人関係で嫌な思いをするなどの心理面での悩みをサポートすることもあります。

気持ちのサポートをしていくことも多いですし、どう工夫していったら上手くやっていけるかといった工夫の仕方を一緒に考えることもあります。

また、学校側の配慮によって良くなることがある場合は、学校の先生へお伝えして、その生徒さんが過ごしやすい環境をつくっていくお手伝いをすることもあります。

保護者の方の困り感に寄り添いながら心理サポートをするとともに、お子様への理解を深めて、保護者の方が接しやすくなることを目指すお話も多くあります。

保護者の方の気持ちが整理されると、保護者の方のゆとりが出てきて、お子様へのおおらかな気持ちで接することができる好循環になることもあります。


まとめ

カウンセリングにおいては、「発達障害であるか否か」よりも、「本人や保護者の方の困り感に寄り添い、支える」といった面が大きいです。

そのうえで、お子様への理解を深める方法として、発達障害の概念が存在するというイメージでいます。概念を照らし合わせて理解してみると、お子様を多角的にみることができ、見えるものが広がることもあります。

そういった意味で、本人の特徴や個性をしっかり理解して、今できる最善の対応を考えていく姿勢というのは、発達障害であるかどうかはあまりこだわらなくていい時もあります。

ただ、制度的に診断があると受けられる特別なサービスや制度もあるので、本人の成長にどれだけプラスになるかということは考慮することはあります。
お子様をしっかりみてあげて、お子様にとっての最善を尽くしてあげたいという思いは、皆さん一緒なのだろうと思います。

文:角井 未央
編集:メザニン広報室