ゆうもあか!
第1話
たすけてくれ。
たすけてくれ。
ヤバい学校に入ってしまった。
「おーい、もみもみ~!」
これは擬音ではない。
私、照山もみじのあだ名だ。
元気いっぱいに私の席に走ってくる化け物。
このまま飛びついてくるつもりだろう(化け物なりのハグらしい)。
何度目だろうか。もう無駄な抵抗はしないと決めている。
変に避けようとすると首にラリアットが入るからだ。
「ッドーーーン!!」
「ハグッ……!」
息が止まりそうになる。
まさかの普通のラリアットが来た。
こいつは秋野ゆうひ。
人の形で生まれてしまった悲しき怪物。
「からの~……もみもみももみもおもみもこおmこkみ」
これは擬音だ。
私の胸が制服の上からめちゃくちゃにもみしだかれている。
まぁ、いつも通りの朝だ。
ここは目高学園高校。
すべり止め用、または最後の選択肢として大人気の高校だ。
私はこの4月からここの1年A組に通うことになった。
入学式からまだ半月ほどしか経っていないがそろそろ登校拒否するつもりだ。
ゆうひは座る私の膝の上に、堂々と跨ってきた。
「おっぱいさぁ、またもみもみおっきくなったぁ?」
「誰がおっぱいだ! 逆だ逆!」
「もみもみさぁ、またおっぱいおっきくなったぁ?」
「あぁ! おまえが毎朝揉んでくるからなぁ!」
これは普通にいじめなので担任の先生に相談したのだが、
『あらぁ、女の子同士でそんなことしてるのね。たまらないわぁ、ゾクゾクしちゃう。もみもみさん、今度先生にももみもみのもみもみをもみもみさせてくれないもみ?』
『照山です。あとどれも基本的に教師のするような発言ではないので改めたほうがいいと思います』
ガチレズのヤバいやつだった。
『え~……。つれない態度もみねぇ』
『いや、ツッコミませんからね?』
今日は校長先生に言うつもりだ。
「はぁ……」
「あらゆうひさんにもみじさん。今朝も仲がよろしいようですわね」
ちっちゃい子が来た。
西洋のお姫様みたいなブロンドの縦ロール(校則違反である)。
望月うさぎ。
こいつはぱっと見中学生だが、頭の中は小学生だ。
「——ですが、もうホームルームが始まりましてよ?」
「はぁ? うるせぇ、ちっちゃすぎて見えねぇんだよ!」
この学校に入ってから極度に口が悪くなった気がする。
「ふえ~ん! ふえ~ん!」
「ハハッ――あのな、現実にそんな泣き方するやついねぇんだよ!」
「あ、いえ、着信音ですの。もしもし爺や——」
「どんなセンスしてんだ!」
うさぎは小指を立てながらスマホを耳に当て、そのまま教室を出て行った。
「いやホームルーム……」
ちなみに彼女に爺やという名のお手伝いなどいない(一度誰もいない壁に向かって延々『爺や』とやらとお喋りしているのを目撃してしまったことはあるが)。
それに見た目も言動もあんなお嬢様然としているが、彼女の家は汚い居酒屋だ。
まもなくうさぎは戻ってきた。
「ふぅ、ただの借金取りでしたわ」
「高校生の娘に催促来るってだいぶピンチなのでは……」
「まぁまぁ、うさちゃんももみもみしようよ! 今ね、D+カップまで来たよ!」
もみもみもみもみもみ……。
「クリックゲー感覚やめてもらっていいか?」
ちなみに先ほどからずっと胸を揉まれ続けている。
「ちょっと女子ぃ~! うるさいよ!」
男子たちが騒いでいる。
「あのさぁ! 下ネタばっかりやめてもらっていい?」
「そうだよ、怖がってる子だっているんだからね!」
なんか色々と逆である。
キーン↓コーン↓カーン↓コーン↓……。
その時ちょうど朝のチャイムが鳴った。
どういうつもりなのか、短調だ。
まったくテンションが上がらない。
その時――。
ダン!
パァン!
「みなさんおはようございます!」
ガン!
「いや備品に対する態度荒いな!」
ドアが壊れる!
タイトスカートに網タイツとピンヒール姿の担任、吉備桃子(ガチレズ)が、鞭を片手に教室に入ってきた。
いつも通りドアを開ける、鞭で一度殴る、閉めるのコンビネーションだったが、殴る理由はわからない。
まぁ、情緒がアレなんだろう。
「というか早くどけよ! 重いな!」
私はゆうひに叫ぶ。こいつまだ私の膝に乗っかってやがる。
「——いい加減しつこいぞ!」
セクハラにも限度がある。いや限度の問題ではないのだが。
「……もみもみもいもみもももいいみ」
言語を失ったようだ。
「あら秋野さん、そのままでもいいもみよ?」
「もみみ!?(もみみ!?)」
「ふえ~ん! ふえ~ん!」
「ちょっと女子ぃ~!」
たすけてくれ。
ヤバい学校に入ってしまった。
ちなみに、我がクラスの惨状を訴えるため、私は放課後を待ち校長室へと赴いた。
校長(61歳)は女騎士のコスプレをして椅子に縛り付けられており、その横で1-A担任の吉備先生が腕を組んで立っている。
「くっ殺せ! 私は誇り高きヒナギク騎士団が長、のぶ子――」
なんでも来週の全校集会に向け、教員一同で演劇をするそうだ。
それの重要パート、女騎士がオークに捕まる場面の練習をしていたらしい。
私は登校拒否を決めた。
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