家の生垣の正体が数年越しに判明し、歴史や自然のロマン(+α)を実感した話
私は今も実家の一軒家に暮らしており、そこには小さいながらも庭がある。
数年前、庭にあった竹製の垣が腐って壊れてしまい、祖父母の代から付き合いのある植木屋さんに、生垣に替えてもらったことがあった。
そして月日は流れて、1週間ほど前。
生垣が元気に日光や風を浴びているのを屋内から眺めている時、
母が何気なく話題にしたことが、頭に引っかかった。
「最近、生け垣のところに、ヒヨドリが赤くなった実を食べに来てるよね」
確かに、うちの庭にヒヨドリはよくやって来る。
でも、生垣に“赤い実”なんてあっただろうか…?何か緑のものはなっているっぽいが…
いや、待てよ。
そもそもあの生け垣…正体は何だ?
実は、植木屋さんに進められるまま植えていただいたので、
生垣が何の植物で作られたのか、我が家の誰も知らなかったのである。
“赤い実”が気になっていたこともあり、
この際その正体をはっきりさせてやろうじゃないかと、
私は文明の利器こと、Google先生のレンズに頼ることにした。
さすがというべきか、件の植物をスマホのカメラに収めたところで、
あっさりとある植物が候補上がってきた。
その名はイヌマキ。
丈夫さと育てやすさを併せ持っているために、まさしく生垣によく使われる植物らしい。
…と同時に、私が大きな勘違いをしていたことも理解した。
あの緑色、実の一部分だったのか…!
実際によくよく見てみると、緑色をした種の奥に、紫や赤紫に熟した果実を見つけた。
そう、母が言っていた“赤い実”というのは、こちらのことだったのだ。
さらに調べてみると、紫や赤紫色の実(※正確にはこの部分は花托なのだそうだ)は、食べられるということも分かった。
「鳥たちが食べに来ている」という母の証言も、本当だったというわけだ。
昔の人々もきっと、動物の行動からヒントを得て、食べられるものを発見したりもしたのだろう。
そんな、記録には残らない歴史のロマンを、少しだけ追体験できた気がした。まぁ、あくまでも想像なのだが。
一方、緑色の種のほうは有毒で、食べると嘔吐や下痢の原因になるという。
といっても、そもそも可食部分と比べてかなり固いので、人間の場合、かなり気合いを入れなければ食べるのは難しいと思われる。
…うっかり毒を食べてしまう心配はほとんどない、となれば。
とりあえず試してみたくなる程度には、私の好奇心はそこそこに旺盛だ。
1つ、十分に熟しているであろうものを採って水で洗い、かじってみることにした。
一言で言うならば…渋くて薄甘い。
少し強めの渋みを含んだ皮の中には思っていたよりジューシーで、ほんのりとした甘みを感じる。
道端でたまたま見つけて、食べてみたものがこの味なら、ちょっと嬉しいかもしれない。
これまた、想像ではあるのだが。
おそらくイヌマキは、あえて本命の種を手前に生み出し、おいしさを奥に秘めたのだろう。
そうすれば、甘くておいしいところを狙った鳥たちの口の中に、種も高確率で入ることになる。
そのまま呑み込んでもらえれば、固い種は消化されずにフンと一緒に排泄され、親元より遠くへと運ばれるのだ。
それに、万が一食べられなかったとしても、熟す部分が腐り落ちれば、種も自然と地面に落ちるだろうし、
種には毒があるから、然るべき時が来る前に種そのものを食べられてしまうことだって防げるはずだ。
この面白い形の実には、きっと、一植物の生存戦略が詰まっているのだ。
そのことを実を以て…もとい、身を以て感じたひとときだった。
…その後しばらく、舌に微妙な違和感を感じもしたのだが。
慣れない渋みで、舌が過敏に反応してしまったのか?
はたまた、(しっかり分けはしたものの)種のほうの毒素がほんの少しついていたのか?
植物には全く明るくないので、正確な理由は分からずじまいだが、
これまた今回身を以て体験…というより、むしろ痛感したことがある。
たとえ自分の庭の植物であっても、食べられることが分かっている場合であっても。
きちんと管理がされていないものの生食は、自己責任で!