高品質、高価格。
科学の目的は、人々の生活や文化の質を向上させるとともに、低コストで高性能な製品を大量生産することである。経済は人類の幸福を増進するための手段である。この30年ほど科学技術や経済活動はかなり進歩したにもかかわらず、物価は漸次上昇し、生活も苦しくなり、本来の目的に沿って発展してきたとは言えない。
その理由はバブル経済が破綻し、不景気による消費の減少が続くと予想されたのだろうか。それ以来「高品質、高価格」の路線を掲げてきたが、これがわが国の経済力や輸出の低下につながった要因であると考えられる。
このような状況の中で、23年9月26日に家電企業の老舗の日立製作所は、競争力強化のために新しい価格戦略を発表した。国内市場向けの家電製品において、メーカーが販売価格を指定する制度を導入するというものだ。
その理由は中国や韓国や台湾など低価格製品が市場を席巻する中で、日立は自社の高機能・高品質な製品に対して適正な価格を設け、値引き競争から脱却しようという狙いがある。
しかし、消費者からみると、外国製品は少なく、厳しい値引き競争が行なわれているとは思えない。これでは唯我独尊の高価格の設定では、競争力を高めることにはならないのは明らかである。
1980年代のバブル経済期には、わが国の電化製品はその基本性能の高さと低価格で、世界を席巻した。その後その勢いはどんどん衰え、三洋電機とシャープは倒産し、ソニー、日本電気、東芝のコンピュータ部門は破綻した。
この指定価格制度は「日立家電品正規取扱店」に対してのみ適用されるが、これは消費者や販売店にとって不利益な制約となりかねない。正規取扱店は、日立の家電製品を販売するだけでなく、設置や修理などのアフターサービスも提供する店舗である。現在、全国で約1万5500店が正規取扱店として登録されているが、これらの店舗は日立の製品のみを扱う訳ではなく、外国製品を含めて他の家電企業の製品も扱う。
指定価格制度の対象となる製品は、11月以降に発売される白物家電全製品のうち約1割である。具体的には洗濯機や冷蔵庫、掃除機、調理家電などの高付加価値な製品が含まれる。
これらの製品は日立が在庫リスクを負担することで価格指定が可能になり、正規取扱店はメーカーから一定のマージンを保証される仕組みになっている。しかし、これらの製品は本当に消費者のニーズに応えているのだろうか。日立は国内家電大手では2社目の指定価格制度導入となるが、先行して20年から指定価格制度を始めたパナソニックホールディングスの業績は振るわない。
この制度は値引きの自由が失われるというデメリットもある。日立は科学技術や経済活動の本来の目的を見失わず、高価格の安定に安住しないで、消費者の声に耳を傾けることが重要である。それでないと日立の市場は縮小する。
海外の家電メーカーは、わが国では低価格で高性能な製品を提供することで、シェアを拡大している。本来はそのど真ん中を切り込んで、性能といい、価格といい、死に物狂いで競争を挑む覚悟を要する。
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