わが国の少産について。

 2023年6月2日、厚生労働省は22年の人口動態統計(概数)を公表した。1人の女性が一生に産む子どもの数を示す指標となる合計特殊出生率は1.26で、統計開始以来最低だった05年と同じ水準となった。
 昨年の出生数は77万747人で、1899年から始まった統計では初めて80万人を下回り、過去最少を更新した。これらの数字から人口減少が進み、社会保障制度や産業活動に支障が出る恐れがあり、社会に及ぼす深刻な影響が見える。
 この原因として考えられるのは、若い世代の未婚化・晩婚化や新型コロナウイルス感染症の流行である。20年と21年に結婚した夫婦は戦後最少となり 、それが出生数にも作用したとみられる。厚生労働省では「妊娠や出産、育児に不安を感じるなど、新型コロナウイルス感染症が影響した可能性がある」と話しているが、一時的な要因に過ぎない。
 政府は6月1日、突如「異次元の少子化対策」の実現を打ち上げ、児童手当の拡充など年3兆5000億円に上る見込みの「こども未来戦略方針」の素案を公表した。まだたたき台の段階であり、具体的な金額や方法も不明で、何か思惑があるようで、少子化問題に真剣に取り組む姿勢が見えない。
 少子化は社会的、経済的、文化的な要因が複雑に絡み合っている現象であり、その中でも、結婚・出産・育児に対する意識や価値観の変化が大きな影響を与えていると言われる。
 しかし、少子化が深刻化したのは1990年代に入ってからで、経済停滞の時期と重なっている。根本的な理由として、国全体が貧困化し、社会には閉塞感が漂い、将来に対する期待や希望が乏しいことにあると考えられる。
 この30年間、選挙が近づく度に大盤振る舞いの少子化対策が打たれてきたが、子育て世帯にも若い世代にも納得できないものばかりで、経済も回復しない。国民は政策の失敗や遅れに不信感と不満が募っている。
 少子化は先進国としての人口現象と言える要素もある。わが国でも戦前の多産多死の人口現象から、戦後の多産少死の時期を経て、少産多死を迎えた。この少産を回復させるには社会を根本から変える大転換を要する。
 私たちは貧乏だったけれども、未来には夢があった。世の中は希望に満ちていて、出生率も高く、3、4人の子どもを持つ家庭が多かった。今は国民の生活が厳しくなって、子どもを産んで育てる余裕のない人が増えた。
 自分たちの親の時代は現在よりもっと大変だった。家族旅行など数年に一度近場に出かけるくらいで、外食もめったに行かなかった。育児も手作り感満載で、母乳が中心で、母親は口移しで食事を与え、親子の情感が豊かで、離乳食や乳児食なんて言葉もなかった。むろん、服や玩具は兄弟や親戚から受け継いで使っていた。
 全体にこんな感じだったが、でも子どもの数は多かった。

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