かつて年賀状は新年の挨拶の主役だった。
最近はその存在感が薄れてきた。2025年の元日に配達された年賀状の数は約4億9052万枚で、前年から34%も大きく減少した。昨秋10月に郵便料金を大幅に上げた影響で、「年賀状じまい」が加速した。
年賀状は通常使用されるはがきと異なり、年賀状用の「お年玉付郵便はがき」が毎年11月に発売され、普通これを用いる。毎年図柄が変わり、新年の干支、宝船や七福神などの縁起物、フキノトウや梅の花などの早春を象徴するものが描かれる。
年賀状の発行枚数は03年の45億枚がピークで、その後は減少の一途を辿り、08年用は41億枚、15年用は30億枚、22年用は10億枚に減少した。この原因として、企業が儀礼廃止の方針を打ち出したり、インターネットで年始の挨拶を済ませたりするようになった。
さらに昨秋10月の郵便料金の大幅な値上げが年賀状離れを加速させた。はがきは63円から85円へ、封書は84円から110円へと値上げされた。これでは年賀状を出すのも一苦労だが、儀礼的に貰う相手も困惑する。この意味では日本郵政は文化の破壊者と言える。
年賀状の歴史は古く、平安時代の後期に貴族たちの間で新年の挨拶文を送る習慣として始まった。江戸時代には寺子屋での読み書きの普及と飛脚制度によって、庶民の間でも手紙のやり取りが一般的になり、年賀状が身近な存在となった。
1870年(明治3)にわが国の近代化の一つとして、郵便事業が始まった。その翌年には日本中どこでも同じ料金で手紙を送ることができる全国一律料金の郵便制度が確立した。87年(明治20)頃からはがきが広く普及し、年始の挨拶をはがきで行う習慣が生まれ、次第に年賀状が年中行事として定着した。
現代はデジタル化の進展により、年賀状の役割が変わりつつある。メールやSNSでの新年の挨拶が主流となり、年賀状の発行枚数は最盛期の10分の1にまで減少した。日本郵便は近年のデジタル化に伴う郵便物数の減少などにより、郵便事業は赤字が続いている。
今回の値上げは脱デフレの勢いに乗って、大幅な値上げを実施し、郵便事業を立て直す意図があった。また総務省も10月以前の料金では郵便事業の存続が困難な状況であることから、郵便事業存続のための措置であるとした。
しかし、値上げの金額はいくら何でも、行き過ぎやり過ぎの感があった。日本郵便は年賀はがきの発行枚数を25.7%減らしたが、想定を超える減少となった。この伝統行事の衰退を少しでも阻止するには、年賀状にかぎり、50円以下の料金にするしかない。といっても、書あり絵ありの文化と伝統のある年賀状が全くなくなることはなく、少なくとも趣味としては残るだろう。