ふるさと納税。

 2024年8月2日、時事通信は総務省が23年度のふるさと納税の寄付総額が初めて1兆円を超えたと発表したと報じた。被災地への寄付など自治体を支援する仕組みとして定着した一方で、多くの人が返礼品目当てで利用する傾向は変わらず、都市部の自治体では税収の流出に歯止めがかからない。
 この納税制度は08年から地方自治体の財政支援や地域振興を目的として導入されたが、いくつかの問題点が浮き彫りになってきた。第一に返礼品を目当てに利用する人が多く、本来の趣旨である地域支援の意識が薄れ、寄付の動機が返礼品の取得にシフトしているのが問題である。
 寄付を受ける自治体にはメリットが大きいが、政府の仕組みによって安定的な需要を誘導してもらうことで、返礼品を用意するコストがかかる。返礼品の調達で寄付金の3割が減少し、サイトなどで宣伝する費用や送付費用もかかる。この間にさまざまな利権が発生する。
 総務省によると、20年度にふるさと納税の募集に要した費用は全国で3000億円以上、寄付の受け入れ額の45%に達し、半分程度は経費に使われる無駄が多い納税制度である。
 大きな都市では、ふるさと納税による税収の流出が問題となる。とくに人口の多い自治体では、住民税の控除額が大きくなり、財政に影響を及ぼしている。また返礼品競争が過熱し、一部の自治体に寄付が集中する一方で、他のでは減収に苦しんでおり、地域間の不公平感もある。
 さらにこの制度を利用できる人とできない人との間で不公平感が生じるとの指摘もある。所得の高い人が多額の寄付を行い、控除を受けることで、税負担の公平性が損なわれる。
 地方財政制度と地方税制度の専門家である総務省のエリート官僚の平嶋氏は、14年7月に自治税務局長に就任した。彼は当時の高市総務大臣の了承を得た上で、菅内閣官房長官に対し、高額所得者による返礼品目当てのふるさと納税の問題点を指摘し、規制の導入を再三進言した。
 しかし、菅氏はその進言を受け入れず、それどころか、ふるさと納税の寄付控除の上限倍増とワンストップ特例の導入で報いた。15年7月平嶋氏は自治大学校長に左遷され、これは異例の人事として、関係者の間で驚きをもって受け止められた。しかし、進言が受け入れられなかったことは残念だが、地方財政の健全化を目指す彼の強い勇気ある行動と信念は、多くの人々に感銘を与えた。

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