見出し画像

麻婆豆腐

ハタチ過ぎまで辛いものが苦手だった私の価値観を変えた料理がある。

麻婆豆腐だ。

ただの麻婆豆腐ではない。京都・烏丸御池にある『中国料理 天嘉』の麻婆豆腐丼だ。ここの麻婆豆腐は世界で一番ウマいと思う。いや、宇宙一かもしれない。

天嘉に初めて来店した際、同席者が麻婆豆腐丼をオーダーしていた。目の前で食されていた麻婆豆腐は、艶めくビジュアルとスパイシーな香りによって魅力がダイレクトに伝達され、異常なまでに食欲を煽られた。

私は唐辛子の類を一切受け付けないタイプだったが、その麻婆豆腐を目にしてからは、「次回は、なにがなんでも麻婆豆腐丼を食べる!」と決心するほど心を奪われてしまった。

改めて来店した際、麻婆豆腐丼の定食を注文した。麻婆豆腐丼に特大サイズの唐揚げとサラダと玉子スープ、食後にはアイスコーヒーが付いてくる。これで税込900円。どう考えても安い。安すぎる。

定食の特大唐揚げは、これまた段違いのレベルで旨い。そして熱い。特デカ・超ウマ・激アツの唐揚げは、口の中を良くも悪くもメチャクチャにする。絶対に熱いのに、旨そうだから食べてしまう。そして火傷する。熱さ以上に味が忘れられず、もうひと口食べて、さらに火傷する。快楽と負傷の無限ループだ。

さて、主役である麻婆豆腐丼。もはや書くまでもないが、口に含んだ瞬間に答え合わせが完了したような衝撃と感動を受けた。旨い。やはり、間違いなく旨い。うま味と香辛料が絶妙なバランスを生み出している。この麻婆豆腐を手掛けた料理人は天才か?

私はこの麻婆豆腐の味に取り憑かれ、一週間分の昼食を天嘉の麻婆豆腐丼で済ませたことがある。周囲からは「そんなに麻婆豆腐ばかり食べていたら、おかしくなるよ」と心配されたものだ。後悔は一切無い。

天嘉の麻婆豆腐丼は私の“唐辛子嫌い”を克服させ、今ではキムチも激辛カレーも積極的に食べるようになった。食の沼は、恐ろしい。甘党だった私の味覚領域を拡大させるほどの威力がある。

天嘉への初来店から10年以上経過したが、今でも機会があれば足を運ぶようにしている。調理の男性と配膳の女性は恐らく大陸の生まれで、忙しい時間帯は箸を投げるように置くところがチャームポイントだ。ご本人は至って優しくて真面目な方なので、細かいことは気にせずサービスを受けてほしい。

天嘉の外観。“王将の餃子”や“天一のこってり”に匹敵する、“天嘉の麻婆豆腐”が食える店
こちらは丼ではなく、麻婆豆腐定食。煌めくラー油から気合いが放たれている

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?