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【完結】49匹目のシュレディンガーの猫

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2019年10月、完結。 退職エントリみたいなもの。
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49匹目のシュレディンガーの猫(1)

連絡が来たのが日付が変わっていたかどうか、忘れてしまった。 着いた頃には人もまばらになった半個室の居酒屋で、これまでスタンダードだった方の紙のタバコとサイダーを携えて「一回さあ、やってみたかったんだよね」とその人は僕に依頼をした。 自分の退職の話を書いてほしいと。 加えてちゃんとお金払うからちょっと盛って格好良く書いてとも。 この人からの呼び出しは大体直前で、いやちょっとあと30分でそこには辿り着けませんと断ったことも一度や二度ではない。 友達の少ない僕はもう誘われないか

49匹目のシュレディンガーの猫(2)

2019年9月18日更新の第一話は、こちらからどうぞ 僕は焼き鳥の盛り合わせと小さいシーザーサラダを頼み、酔っ払ってもいないのに上機嫌な先輩の様子をうかがいながらかきこんだ。 「先輩、その『無料でやれ』ってやたらいう人はどのくらいいたんですか」 「えー、主に社長。っていうか、大体の人はお金でなんとかできる部分はそうして攻略したいよね派だったよ」 マジかよ。 「その社長さん、なんで経営やってたんですか、大体何ヶ月も未払い出してるくせに」 「だって本人は経営の才能があるって

49匹目のシュレディンガーの猫(3)

第一話→https://note.mu/m00nmachinery/n/n912b7437e7a8 第二話→https://note.mu/m00nmachinery/n/ned231f26b732 ほんのちょっとしんみりしたような顔をしながら 「あと一年で辞めるつもりではあったんだよ、あの仕事」 と先輩は言った 「あと一年?」 どういう意味だ? キーボードを叩く手が一旦止まる。 「そもそもの会社としての寿命が持って五年だと思っていたから、そのあたりで辞めようって。ちょっ