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MIMMIのサーガあるいは年代記 ー7ー
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第二章 「はたしてMIMMIの少女時代はどうであったか」
甲午(きのえうま) 睦月
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5日、新しい彗星が発見されたと天文学専門誌の片隅に発表された。発見したのは、ハワイはマウイ島ハレハアカラ山頂にある国立天文台ハワイ観測所の日本人研究員で、「すばる」天体望遠鏡を使ってとのこと。この彗星は見かけ等級23という暗いもので、彗星を専門にする天文学者や一部の天文ファンの間ではかなり評判になったが、一般人はマスコミが報道しなかったのでまったく知らなかった。
専門家の間では、この彗星の軌道と今後の予測軌道への関心が高かった。その訳は、彗星が地球の公転面にほぼ垂直というあり得ない角度で太陽に近づいていることと、太陽に近づいた後、スイングバイにより加速し地球の公転面に向かってくる極端な楕円軌道を描くことであった。彗星としては珍しい軌道なのである。各地の大型望遠鏡で観測され、太陽に近づくにつれて明るさをまし、近日点を過ぎたあたりから前記の極端な楕円軌道であることが判明したのである。やがて彗星は太陽の近くを半周し、速度を増して地球の公転面を突き抜けて遠ざかるものと大まかに予測された。また一方で、この彗星がどこから来かというテーマも専門家の間では甲論乙駁で結論がでなかった。
こんな一部専門家の議論とは裏腹に、全世界の一般大衆も為政者も多種多様ではあるが、ありきたりの課題や困難を抱えながら比較的平穏に過ごしている。
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この年4月に桃子は16歳になります。「鬼も十八番茶も出花」ということわざがありますが、この18歳というのは当時の数え歳ですから、現在日本の「年齢の計算に関する法律」(明治35年法律第50号)に拠れば16ないし17歳。桃子も出花の歳ということになります。
もっとも、幼いころからとてもとても可愛い桃子ですから、鬼のような形相をしているはずもなく、美人の上に出花の時になったのです。世の中の男たちと一部の女性がほうっておくはずがありません。
この数年前から彼女は、美女として近郊では評判が高く、中学校に通わず邸内で家庭教育をうけているにも拘わらず、その美貌と姿は県内の中学校、高校で評判になっておりました。どれだけ評判かというと、中高生が学校をサボって彼女の大邸宅の周りをうろつき、桃子の姿を一目みようとたむろしていました。中高生ばかりではなく、噂の美少女ぐあいを確かめようと、大学生やヤングなアダルト(死語)、オッサンも集まり出しました。
当然に、何重もの高い塀と有刺鉄線を乗り越えて邸内へ侵入しようとする者、離れた丘陵の上から、超望遠レンズで桃子を盗撮しようとする愚か者も現れてきます。
その多さといったら、ヒロコ-がタコ焼き屋を開いたら一財産できるのではないか、と準備を始めたくらいです。
土日は特に多く蝟集し、県内でも話題になって、某地方紙が取材に駆けつけて、桃子のコメントを取ろうとしたくらいです。ご想像のように、この記者も桃子のファンだったのです。
ここまで大騒ぎになると、芸能プロダクションやTV局も黙っていません。桃子の容姿を撮影したら、大スクープになるからです。マニアには買えない試作中の超々望遠暗視カメラはいうに及ばずドローンやヘリコプターが乱舞し、その密集の危険性から国交省から行政指導が出たほどです。
桃子の住まう大邸宅の周りはこんな大騒動の毎日ですが、本邦の政財界の黒幕・フィクサー第一人者を自他共に認めるお爺さんの力をもってしても、こんな無数の有象無象を一挙に追い払うことはできません。追い払ったとしても、すぐに新たな有象無象が蝟集してくる始末です。
しかしながら、大邸宅の周りに集まる有象無象も一番外側の塀を越えることなどはできませんでした。桃子の周りにはエリカをはじめとする三人娘の身辺護衛、「迷惑もハローワークもあるかい」が口癖のお兄さんをはじめとする元気なお兄さんたちやロドリゴを筆頭にオーバーキルな武装をしている危険なメキシコのお兄さんたちが控えています。
塀に近づくことができる者は皆無です。ドローンやヘリコプターはなぜか原因不明で墜落します。長距離の盗撮スポットでは、いつも元気なお兄さんたちがブルーシートを敷いて宴会をしています。誰一人近づけませんが、諦めるようような人たちではありません。桃子の大邸宅を3㎞ばかり離れて取り巻いていると自然と互いに顔見知りになり、桃子ファンクラブ(非公式)が結成されて情報交換が行われ、出所不明の画像などから「桃子グッズ」として発売(非公式)される騒ぎになりました。
私事で恐縮ではありますが、わたしが伝え聞いた大女優沢口靖子の高校生時代の人気を上回っています。彼女の出身校である大阪府立泉陽高等学校卒業生にわたしの友人がいるのですが、同校の口碑として残っているのは、彼女の美少女ぶりを一目見ようと近隣の高校生が同校に集まってきたそうです。当然近隣の高校で噂が広まっていますよね。また和製「オリビア・ニュートンジョン」の美女とも言われていたそうです。でも、「オリビア・ニュートンジョン」がどんな顔かよく知らないのでググってみましたが、沢口靖子に似ているとは思えませんでした。
これはわたしの目が悪いのか、昭和後期特有の比喩対象が原因なのか判然としません。
沢口靖子以外にも有名アイドルの中高時代の人気を聞いたこともありますが、これほどではないように思えました。話がずいぶん横に逸れまくりましたね。失礼。
閑話休題
桃子を一目見ようと蝟集した有象無象の大騒ぎに一番困り、激怒したのは桃子本人です。 年頃の娘になり、大阪の天王寺でステキなお洋服を探してみたり、難波でコジャレた喫茶店やレストランにはいって友達と駄弁りたい。ジャニーズ系アイドルの追っかけもしてみたい。格好いい小顔の男性にちやほやされたいなどお年頃の普通の女性の願望があります。
しかしながら、彼女は宏大とはいえ屋敷の壁塀に取り囲まれ、外出するには宅配のトラックに偽装した自動車の底に隠れてしかできません。
これでは大邸宅が宏大とはいえ、軟禁されているのと一緒です。
お爺さんはスイスのレマン湖畔の別荘、ニューヨーク州マンハッタンのセントラルパークを見下ろす5番街のマンション、デラウェア州リホーボス・ビーチの別荘など世界に多くの拠点を持っていましたから、関空からプライベートジェットで飛び立つことも考えましたが、関空に着き通関するまでに発見されて、大勢の野郎女郎が駆けつけることは間違いありません。それに、友人たち、つまり邸内の私設学校のご学友たちと別れるては楽しくないに決まっています。 ステキなお洋服を探し、レストランで無駄話をして騒ぐのも彼女たちとしたいのです。
「くたばれ! 屑ども! F**k You! Shi*!」などと門前の有象無象に叫んで、中指を立てたハンド・サインを繰り出していましたが、疲れ果ててしまいました。
この四文字熟語とサインは、メキシコ出身の非常にヤバイお兄さんたちから自然と学んでしまったのです。
「戦術核兵器、そうねデイビー・クロケット砲なんか使って、この土地一帯に草木も生えぬようにしてやって!」と、ロドリゴに頼んだこともあります。
「お嬢様、口答えするようで申し訳なのですが、デイビー・クロケットはとっくに製造していませんし、在庫もないでしょう」
「なら、他のを手にいれてよ。ロシア製でも中国製でも、イラン製でもいいから。すぐによ。あの虫けらどもを駆除するの!」
「簡単には手にはいりません。それに戦術用としても核兵器を使うとなると、さすがに……」ロドリゴはメキシコ麻薬戦争で残虐な死闘を繰り広げてから10数年経ち、ここの平穏な生活にも慣れきって少しだけ円満な性格になってしまっていました。
「役立たず! あの害虫どもがいなくなったらサリンでもなんでもいいの! まどろっこしいわね。ヒロコ-を呼んで」
ヒロコ-は、昔、夏祭りの夜に絶滅危惧種の暴走族を率いて騒いでロドリゴたちや三人娘に散々な目に遭わされてから、ここで住み込みの従業員になったのですが、その目的である三人娘の一人橋本七海には今でも肘鉄を喰らわされ続けています。彼も既に20代後半、アラサーの範疇にはいる年齢になってしまいました。
「お嬢様、お呼びでございましょうか」彼も埋められかけた「ショベルカー」の兄さんたちの教育を受けて、言葉使いも丁寧なものになっています。お嬢様に失礼な言葉遣いをしたら、それこそまた生き埋めにされかねませんでしたから。
「族のアタマ張ってたんだよね。そいつら集めて、あの害虫たちを車ではねてよ。清掃用のドーザーも忘れずに用意して」
「ずいぶん昔のことですよ。族をやってたなんて。あいつらも今ではまともな生活してるから、悪いですが無理です」と断りました。
「お前も役立たず」
「ご主人様ご夫婦が何かいい考えをお持ちのはずです。もうしばらくお待ちください」
邸宅を囲む桃子ファンやマスコミのために、お爺さんも黒幕・フィクサーの仕事もあがったりになっていたのです。誰が好き好んで衆人環視の中を黒幕とかフィクサーと言われる老人の宅を訪問するでしょうか。いわんや国内には居ないことになっている外国政府要人や、大物政治家をや。
「ヒロコ-も嫌な奴になったわね。桃子が小さいときはよく遊んでくれて、言うこともよく聞いてくれたのに……」
「ヒロコーもそれなりに大人になったということです。これ以上我が儘を言わないでください。お嬢様。お嬢様こそ昔の無邪気なお姿を……」
「ヒロコ-ったら……」彼の減らず口に反駁しようとした桃子は、下腹部を押さえました。
「あれ、あれが来そう。尻尾が生えそうな気がする」
そうです。桃子に”尻尾”ーーつまりち〇ちん、男根のことですが、この邸宅ではこれらの単語はありません。すべて尻尾というのですーーが生えそうな予感がしたのでした。
「あさ大変!」というものの、以前に比べて邸内の人間は慣れっこになっていて、比較的冷静です。ですが、このときのためにだけに使用される非常用ボタンを、ヒロコーは駆け寄って押しました。
『メリーさんのひつじ♪ メェメェひつじ メリーさんのひつじ まっしろね どこでもついていく めぇめぇついていく どこでもついていく かわいいわね♪』
「メリーさんのひつじ」のやけに明るいメロディが邸内中に響きます。
この曲を選んだのは、非常ベル音などでは切羽詰まった危機感と異常を連想させるので、それを避けたためです。お爺さんとお婆さんは桃子に尻尾が生えることを、ある意味通常の生態として受け容れる努力をしているのです。別の意味では、諦めですが。けれども非常事態であることは昔から変わりありません。
エリカをはじめとする三人娘が部屋に駆け込み、ヒロコーを窓から屋外に邪慳に放り出し、桃子を隠すようにして「お嬢さまの館」へ連れ去ります。桃子の館ではすべての窓のカーテン、鎧戸等が降ろされ、照明も暗くされます。そして、ロドリゴを筆頭にメキシコ出身の危険なお兄さんたちが、完全武装で「お嬢様の館」を取り囲みます。
本館や迎賓館では、陳情などで来ている来客は、すべて追い返され、門が閉ざされました。さまざまな職種の従業員たちは、足止めをされて外出、帰宅ができなくなってしまいました。もちろんのこと、邸外との通信手段はすべて切断されます。
「迷惑」が口癖の元気なお兄さんたちは、敷地内各所に配置され、あるいは巡回を始めます。ヒロコーもこの中に混じってこき使われていました。彼らには、”尻尾”とは何か、お嬢様の非常時とは何のことなのかは一切知らされていません。知っている従業員は昔の乳母と身辺警護兼家庭教師の三人娘とメキシコの危険なお兄さんたちだけです。
お爺さんとお婆さんは、桃子に”尻尾”が生える理由や治療法を未だ発見しておりません。ですからこの暗い秘密が世間に洩れないように情報管理を徹底することにしたのです。これがお爺さんたちの窮余の危機管理方法でした。
「そう急かさないで。いつものことでしょう。なんで大騒ぎするのよ」
「我が儘を言わないでください」と、オフィーリアが桃子を部屋に押し込み、扉に鍵をかけます。
「だれにでもあることでしょう」と、桃子が口を曲げて言いました。
「女性には……だれにでもあることではありません。尻尾が生えてくるなんて……」と、エリカが天を仰ぐように口走りました。その様子は、今にも跪いて、主イエスキリスト様と聖母マリア様にお祈りをしかねない勢いでした。
「いい加減にして出て行ってよ」と、桃子は手が付けられなくなりかけています。家の周囲を有象無象の者に取り囲まれ、執拗にストーカーされるストレスが溜まっていましたからもっともな反応でしょうが、それに加えて桃子が反抗期のただ中にあり、いわゆる厨二病にかかっていましたから、周囲の者も手こずります。
橋本とオフィーリアが目配せしてから、肩をすくめました。二人がこの部屋で桃子を見守り、エリカが部屋の外で警備をすると、無言の裡に決めたのです。
「またか。困ったことだ。どうにもならんのか」お爺さんは独り言のように嘆いて、来客が居なくなた部屋でソファーに勢いよく倒れ込みました。
エリカに桃子の様子を電話で尋ねると、「悪いことに困ったことが重なるとはな」と溜息をつきました。邸宅周囲を有象無象に取り囲まれてから、フィクサー稼業も上手くいっていなかったのです。
「西淀川工科大学へ行って、学部長に問い詰めてやる。……誰か宅配便のトラックを呼んでくれ」宅配便のトラックに隠れて西淀川・摂津工科大学(NIT)の学部長に桃子に尻尾が生える原因究明に発破をかけにいくつもりなのです。彼にはこれくらいのことしか思い浮かびませんでした。
これと同時刻、大和平野には淡雪が舞う底冷えのする天候でしたが、桃子をストーカーする有象無象は減ったとはいえ数十人が、モンベルの冬山登山用具装備であちこちに屯してます。
このうち4人のグループは、盗聴によるストーカーをしていました。桃子のいう害虫のほとんどは彼女を直接見て声をかけるタイプや画像を撮影するタイプなのですが、ほんの一部に音声を盗聴するタイプがありました。このグループがそれです。桃子の生音声や家庭内プライバシーを暴くのが目的で、その録音も高く売れるのですから非常に熱心です。 ただ、桃子のまわりの警備陣も大多数のタイプの害虫に気を取られ、また監視範囲が大幅に拡がったのでこの4人のことは見落としてしまいました。
このグループは少し小高い山の頂に冬山登山装備で5日前から陣取り、大木の樹頂にレーザー・マイクと超指向性集音マイクを設置してテントの中で聴音、編集をしているのです。マイクのこの高さから、「桃子の館」のガラス窓がかろうじて見通せるのです。
レーザー・マイクについては説明不要ですね。窓ガラスにレーザーを照射して室内の会話が盗聴できるマイクです。1㎞以上の遠距離からでも盗聴可能と言われています。彼らは、昼夜24時間交代で盗聴していました。
「おい、起きろよ! 騒がしくなったぞ。何か起きたんだ」一番肥った男が、交代で睡眠にはいったばかりの眼鏡の男を揺り起こし、ヘッドホーンを手渡しました。
「メーリーさんのひつじの音楽みたいのが聞こえてから、館内が騒がしくなった、大勢が走り回る跫音やドアを叩きつける音がする。何か起こったぞ」
起こされた眼鏡の男は不承不承ヘッドホーンを着けると、「よく聞こえないぞ、お前いいい耳してるな」
「はっきりと聞こえた訳じゃない。だからお前の腕でチューニングしてクリアな音声にしてほしいんだよ」
他の者も集まって来てそれぞれヘッドホーンに聞き耳を立てます。
「おい、レーザーの出力を目一杯上げてくれ。それから予備のレーザーマイクを隣の窓ガラスに当てろ。角度は後で言う」彼は左手の双眼鏡で桃子の館を覗き、右手でノートパソコンのマウスを操ります。
第三の無精髭を生やした男は、自分のノートパソコンの画面を眺めながら第二のレーザー・マイクの角度を遠隔操作しています。第4のツルッ禿な男は、アンプ出力調整やフィルター調整で音声をクリアにしようとつとめています。
「第1マイクを0.5ミル分だけ右に、第二は3ミル程度右に。俯角を揃えて。……それくらい。音源の移動に合わせて両方のマイクを追随させて」眼鏡の男はこう指示すると、自分で開発した交差法を利用した高品質な盗聴プログラムを走らせます。
「うん、メリーさんひつじが聞こえてる。騒がしい跫音。急ぐ跫音……女性の4人か5人。……女性たちの跫音が遠ざかる……建物の廊下の奥へ走っているのか、厚い絨毯の上を走っているのではない。この音源が消失した」
「いちいち解説しなくても、こっちも聞こえてらぁ。それより、その桃子らしい音源を追跡しろよ」と、一番肥った男が怒りました。
「あっ、カーテンが閉められて、鎧戸やブラインドが次々に降ろされてゆく音だ。これじゃあレーザー・マイクが死ぬぞ。おいメガネ、桃子の音源を追えよ。いまどこなんだ?」と、無精髭。
「おーい、集音マイクはどうだ? 敷地内の大雑把な音源の位置関係を捉えられるか?」と、メガネがツルッ禿に尋ねると、「ノイズが多すぎる。音源が多い。立ち騒ぐ騒音ばかりだ。言葉は聞き取れない。遠すぎて無理だ」という答が返ってきました。
「むしろ集音マイクで音源のない場所を特定しろ。大雑把でいい。二次元で特定しろ」と、メガネが指示します。
「いま、やってる。ちょっと時間がかかるぞ」と、ツルッ禿が呟きながら、音源の位置を、グーグル・マップの衛星写真からダウンロードした敷地内の各館の立地と照合しながら消去法で特定しようとしています。
「だめだ! 敷地の奥の方の館は、手前の館に遮られて聞こえない。見通せないから音もさえぎられっちまう。桃子はその建物に引きこもったに違いない」と、ツルッ禿はさじを投げました。
「あと二カ所くらい集音場所を設けて、死角がないようにしないと無理だな。そんな人員もレーザーマイクもないし」と、続いてメガネが言って降参のハンドサインを示しました。
「この距離じゃ、反響音を拾えないし、お手上げだわ」と言って、無精髭も首を振ります。
「でも、メリーさんのひつじが聞こえる前の録音はあるだろう。おれが品質を高めてやる。なにか聞こえるかもしれないぞ」と眼鏡の男が希望を持たせました。
20分ばかりかかって、眼鏡の男はレーザーマイクが拾った会話を、途切れ途切れながら識別できる程度に復元することに成功し、4人で改めて聞き耳を立てました。
「F*ck You! 戦術核兵器? イラン製? ……虫けら、サリン、ヒロコー、……ひき殺す……なんかヤバ目の単語が多いな。ん? 尻尾? 尻尾ってなんだ」、「このあとがメリーさんのひつじだな」、「ヤバ目のこと喋ったのが桃子だな。声の年齢が一番若いからな」、「本当かよ。桃子ってヤバイやつじゃん」、「これは売り物になりそうだ」、「バックアップは二重にとっておけよ」などと銘々が言い交わしました。
(つづく)
参考:デイビー・クロケット砲