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袖摺れの君 #旅する日本語

「結婚、しようかな」
 君が突然言うから、私はとても驚いた。 

 君と私は、もう15年近く傍にいる。一緒に寝たことはない。それでも私たちはお互いのものだった。
「お前の存在をいやがる彼女なんていらない」
 冷たくそう言った君を思い出す。私はいつでも君の中の1番の女で、これからもそうだと思っていた。

 袖摺れ、と言えるほどの距離が私たちには当然のようなのに。
 それでも私たちは決して重ならない。だからこうなんだろう。
 この距離を、新妻になる彼女はどう思うのだろう。

「旅にでも出ようかな」

 君の故郷である沖縄にひとりで行けば、君との距離を取り直せるかもしれない。暑いのは苦手だし、それで君のこともちょっといやになれるかも。でも、いやになっちゃうのも寂しいのかな。

 この距離感を抱き締めて、思いごと旅に出る。結婚式には間に合うように、帰ってきてあげよう。
 

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