「事務所の人間は現場に出て手伝うのが偉い」という空気は会社を衰退させる
先にエクスキューズしておくと、僕は会社で製造現場にも出ていなければ営業にも出ていない立場であり、今後そのいずれにも身を置いて理解を深めていく必要性は心の底から感じています。それでも、今後自分が会社を改革する中で誤解がないように、そしてこの記事が同様の悩みを抱える方の溜飲を下げる一助になれば幸いです。
役職や立場は役割分担のためにある
まずタイトルの”「事務所の人間は現場に出て手伝うのが偉い」という空気”について考えてみたいと思います。
結論から言うと、個人的にはこれは経営的に誤りだと思っています。もっとラディカルに言えば、この空気が濃くなれば濃くなるほど、実際に手伝う時間が長くなれば長くなるほど、長期的には会社は衰退するとすら思っています。
理由は簡単で、生産性の高いアウトプットをすること、またそのための方法を考えて実行に推し進めるのが管理職や経営層の仕事であり、現場に出て手伝っている時間はその仕事が棚上げになり続けるだけだからです。
「あの社長はいつも現場に出て手伝ってくれてさすが!」
というような美談をよく耳にしますが、よほど優秀な経営者で経営状況も順風満帆ならさておき、一般的に会社にはテコ入れすべき点が常に山積しているものであるところ、それを抜本的に変革するのは経営者や管理職にしかできない仕事であり、1分1秒でも多く時間を割いて取り組むべきことです。
それにも関わらず、「あいつらはいつも事務所で座っているだけだ」「たまには現場に出て手伝ってくれないのか」と言ったように、その役割分担を置き去りにした感情的な議論を発生させてしまうような会社は生産性が低いと思っています。
(もちろん、管理監督の一環で見回りをし、その際に手伝いをするというのは大変素晴らしい行いであると思っていますし、現場の改革のためには三現主義と言われる通り現場に行かなければ問題解決はできないと強く信じていますので念のため。)
そもそも他人の仕事は楽に見えがち
自分自身、前職の日本政策金融公庫に入社する前は「銀行行ってもみんな黙々と静かに作業してるし、大した仕事してないんだろう」と思っていました。
しかし、実際に中に入ってみていかにこれが浅はかな考えだったかを思い知らされるわけです。支店の中は常に臨戦態勢でほぼ全員が1分1秒を惜しんで仕事をしていて、外から見ると静かに見えたのは、ただみんな目の前の仕事が激烈に忙しくて黙々と処理に没頭しているだけでした。暇な時間など1秒もなく。
しかし、外から見るとどうしても余裕がありそうに見えるのです。
そして「いいよなあ、この人たちは楽で」と思ってしまうわけです。
また、自分が今いる会社でも、去年入社した当時は
「○○部署の××は仕事をさぼっているんじゃないか」
「○○は事務所にばかりいて全然現場で作業しない」
製造現場にいる人からこんな話を聞くこともありました。
いわゆる”隣の芝は青い”状態なのですが、これは心理学的には相対性剥奪と言われ、自身が置かれる境遇の絶対的な劣悪さによるのではなく、主観的な期待水準と現実的な達成水準との格差によって発生するもので、自身の期待水準が十分にコントロールできていなかったり環境がそれに見合っていなかったりするとこのように感じてしまうものです。
今の時代に「沈黙は金」は非効率
ではそんな雰囲気を無くすためにはどうすればいいのかというと、
1.「徹底的な見える化」
2.「自発的な情報発信」
この2つに尽きると思っています。
イギリスの思想家カーライルの言葉に「雄弁は銀、沈黙は金」とあり、日本では転じて「黙って行動するのが美徳」という意味でつかわれることがありますが、今の時代の組織運営に置いては馴染まないものと個人的に感じています。昔と違って飲みニケーションも無くなり、そもそも残業も無くなって、そもそもコミュニケーションの機会も減っているのが現代です。発信しなければ誰にも何も伝える機会はありませんし、自発的に発信することはいまや仕事の義務だとすら思っています。
弊社では、社内に掲示板を作ったり、Slackに自由投稿チャンネルを作ったりして、その環境整備と後押しをしてますが、それをもっと推し進めて全社員がお互いのことを良く知り、心から信用しあって各自の業務に専念できるようになればいいなと思っています。
というわけで、ややもすると自分の普段の仕事の正当化ともいえるような話でしたが、ご笑納いただけましたら幸いです。