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観る将的「天使の跳躍」の元ネタをちょっとだけ考察

 七月隆文先生の「天使の跳躍」。24年8月7日に発売されたばかりという新刊です。将棋を知らない人でも楽しめる内容になっている、熱い物語です。 私自身は藤井聡太竜王・名人(本書ではライバル的立ち位置の源八冠)ファンですが、とても楽しく読めました。現実の将棋界を知っている人からするとすぐに「あの先生!」と名前が思い浮かぶ人が出てくるし、棋戦、対局場、エピソードも現実にあったものを上手く取り入れられています。将棋好きな人が読むと2倍楽しいかも。

 このノートでは、出来るだけスポイラーはしない形でモデルになったであろう棋士などについて触れていきたいと思います。(あくまでも私見です)

 まず主人公田中一義。これはもう木村一基九段でしょう。「千駄ヶ谷の受け師」とも言われる方です。洒脱な話し方、解説の上手さ等も相まってとても人気の高い先生です。木村九段の名解説を聞いてみたい人は是非「木村一基 解説」で検索して出てきた動画を見て欲しいです。

 田中と聖王戦で対峙することになる源八冠。これは将棋を知らない方でも分かると思います。藤井聡太竜王・名人がモデル。強い、八冠とか記録面だけでなく、歩く時の癖(藤井ファンは勝利の女神のエスコートとも言う)や、対局室にデジタル時計を持ち込む辺りも藤井竜王・名人です。現実の藤井先生は22歳ですが、本作ではちょっと年齢があがっていますね。

 平成の王こと上州。これも将棋界のレジェンド、羽生善治九段がモデル。作中で言及されている名将戦というのは恐らく2016年の第57期王位戦七番勝負。

 第一局の立会人他として登場してくる地守(ガイア)。九州出身、対源の勝率が高いetc これは地球代表こと深浦康市九段。現実の深浦先生も九州出身、対藤井聡太戦の勝率が高いです。第3期叡王戦本戦トーナメントでの対局が個人的には強く印象に残っています。雁木の使い手。

 速水九段は豊島将之九段。速水くゆ=豊島きゅん、ですね(笑)タイトルを取るまでの経緯もその後についても正しく豊島九段。

 振り飛車スペシャリストの小湊は藤井猛九段。小湊プラン=藤井システムです。作中に出てくる描写でも「ああ、藤井てんてーだな」と納得。

 A級棋士から男爵との異名を持つ華山は、貴族こと佐藤天彦九段。名人を取られた頃には横歩取りスペシャリスト。(最近は振り飛車を指されています) 画像検索して頂くと、華山のイメージが湧くと思います。

 同じくA級棋士で格調高い棋風な本郷は郷田真隆九段。格調高い=郷田先生、で将棋ファンの認識は一致しているかと思います。

 魔人こと竜童。上州(羽生)全盛期に唯一渡り合った棋士。これは魔太郎こと渡辺明九段。渡辺九段については伊奈めぐみ先生(渡辺九段の奥様)の著書「将棋の渡辺くん」を見て頂くと大変楽しめるのではないかと思います。

 主人公の弟子の涼についてのエピソードはいくつかの棋士の実話のハイブリッドですね。木村九段の弟子である高野智史六段も勿論、深浦九段の弟子の佐々木大地七段とかも混ざっています。 因みに木村師弟については、第50期の新人王戦の記念対局がすごく良いのですが、現在abemaでも視聴期限が切れているようです。対局前に木村先生が髙野先生に向かって「平手か?」(平手=ハンデなしの勝負)と聞くのが本当にエモかったです。

 目立った棋士関連は以上ですが、次が棋戦や対局場について。
 今作のモチーフになっているタイトル戦での木村先生の相手は藤井先生ではなく豊島先生(第60期王位戦七番勝負)です。木村先生が藤井先生と実際にタイトル戦で対戦したのは第61期王位戦七番勝負(4-0で藤井が奪取)でしたが、今回の聖王戦というのは一日制五番勝負。名前からして棋聖戦がモデルかと思われます。

 第一局は山梨。対局室の名前が「常磐」となっていて将棋ファンなら思わず笑みがこぼれるかと。ここのモデルは山梨県甲府市の常磐ホテルです。囲碁・将棋のタイトル戦を数多く引き受けているお宿になります。

 第二局は千葉の海岸にあるホテルかぐや。これは木更津のホテル三日月。ここはヒューリック杯棋聖戦の対局場に複数回なっています。因みに三日月グループは日光やベトナムもタイトル戦で使われています。

 第三局は鹿児島県指宿。ここもタイトル戦常連の宿、指宿白水館がモデルです。羽生善治永世七冠誕生の地となったのはここです。

 第四局は神奈川県の老舗旅館鶴屋。これは元湯陣屋がモデル。陣屋カレーは筆者も一度は食べてみたい。ここも他のお宿と同様、数々の名勝負の地となっています。「陣屋事件」というのを検索してみると、古い時代の将棋界が垣間見えたりします。

 最終局は虎ノ門スカイホテル。東京タワーとお台場の海が見下ろせるとの描写があります。これはグランドニッコー東京台場。羽生VS豊島の89期棋聖戦第2局の対局場になっています。女流のタイトル戦でもよく使われている印象があるホテルです。

 他にも呉服屋さん(巻末にお名前が出ている通り白瀧呉服店さんがモデル)とか、チェックし始めたらきりがないです。
 印象に残る台詞の中にも実際の棋士の先生(上に名前が出ています)が仰った言葉もあったりします。 見つけられたらあなたも観る将の仲間入り。

 将棋界のことを良く知らないで読まれた方も、気になった棋士の方がいれば是非調べてみて欲しいです。
 以上、観る将的「天使の跳躍」の元ネタをちょっとだけ考察してみた、でした。

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