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感想『コンビニたそがれ堂:夜想曲』
村山早紀 2024 ポプラ社
病院の待ち時間に読もうと思って、本を荷物に入れる。
総合病院では、婦人科、呼吸器内科、緩和ケア内科、精神科にかかっている。
1日にかかるのは2つずつだが、時々、そこに歯科や皮膚科、循環器内科が加わることもある。
予約外の診察や検査が加わると、途端に1日がかりになる。
だから、本を荷物に入れる。
そのくせ、意外とゆっくりと読むことはできない。
自分の番号に耳を澄ませていないといけないのだもの。
本の世界にどっぷりと浸ってしまうと、周りの音なんか聞こえなくなるから、集中するわけにはいかない。
そうすると、なかなか読書を楽しみづらい。
だから、この本も、何回、病院に持って行ったことだろう。
読みかけて、次の月になると、思い出すために最初から読み直す。
しかも、この本の最初の短編が素晴らしく美しいのだ。
ノクターンを聴きながら楽しみたい。
村山早紀さんの作品は、しばしば音楽が聞こえてくる。
中でも、この短編はピアニストが主人公で、ピアノに触れるときの描写が美しい。
最後にピアノに触れたのが何年前かも思い出せないような私でさえ、ああ、と溜め息をつきたくなった。
ああ。楽器はそんなところがある。
彼は、通りすがりについ指が当たってしまった、というふうに、指先で軽く鍵盤にふれてみました。冷たい滑らかな感触は、ひとに慣れた小さな獣が、そっと頭をこすりつけてくるように、優しく指を押し返し、静かで澄んだ音が、夜が近い路地に水面の波紋のように広がってゆきました。
しかも、店長さんが顔を出してくれることが嬉しくて。
ねここも好きだけど、やっぱり店長さんもいないと。
美しい景色と音楽を思い浮かべながら、私は「ノクターン」ばかり、何度も何度も読み返した。
読書と読書の間があいていただけではなくて、この短編が好きすぎて、次の話に移れなかったのである。
とはいえ。ふと気づけば、全部を読んでいない。
「夢見るマンボウ」も「空に浮かぶは鯨と帆船」も、どうにか年内にどちらも堪能することができて、ふと、12月に入っていることに気づいた。
「天使の絵本」を、クリスマスにあわせて読むことができてよかったと思う。こんなに美しい物語はない。
戦後、人が懸命に生きてきた時代を忘れたくないひとりとして、この物語は尊くてならない。
今も世界のあちこちで、懸命に生きようとあがいている人々がいることを忘れずに、祈るような気持ちで読んだ。
あめにはさかえ みかみにあれや…
おりしも今夜はクリスマスイブ。
ぐろーりあ。ぐろーりあ。
今夜は、神様もあやかしも宇宙人も、サンタクロースも、ひとを、街を、優しく見守っている。
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