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みかんとアサリ

パートナーがみかんを向いてくれた。
そこまでしてくれなくていいのに。自分でできるよ。
笑いながら受け取った。
ありがたいのと、申し訳ないのが半々で。

昨年の抗がん剤治療の副作用で、右手の親指と人差し指の爪は青黒く変色した。変形は中指まで及んだ。
左手の親指や、両足の親指など、四肢の爪はどれも変形し、淡く茶色がかったが、右手の爪が一番ひどい。
時間が経つにつれて爪ものび、今は親指の根元は健康的な色合いになり、上半分が黒ずんでいる。
爪を切ると、切った爪そのものが黒っぽい。

まるで、アサリのようだ。
茶褐色で、縦縞が入っている。
でこぼことして、筋だらけ。
私の親指に、アサリ。

見た目だけならまだよいが、この爪、力がかかるとはげそうになる。何度も痛い思いをしてきた。
指先の痛みやしびれといった神経障害と重なって、ペットボトルを開けたり、プルタブを開けるときにうっかりすると悲鳴をあげる羽目になる。
テープで爪を守るようにカバーしたり、マルチオープナーを手に入れてからは、そういうことも減ったけど。
それに、半年も経てば、なるべく爪に負担をかけないような手の使い方を覚える。

そう自負していたが、自分でみかんをむこうとして、泣きそうになった。
みかんをひっくりかえし、底の中央に右手の親指の爪を立てようとして、泣きそうになった。
そう。そこで親指の爪を使わなければならないのだ。よりにもよって。

ごめんよ。みかん、自分ではむけなかった。
できると思ったんだけどな、これぐらい。

彼は優しい。
知ってたけどさ。
なんでそんなに思いやれるんだろう。
できないとは思わなかったんだよ。

彼は優しい。
優しいなぁ。
言うと、憮然としそうだから言わないけれど。
ここに書いておこうと思ったんだ。ふふん。

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