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ちょっと見てって🫶     創作都市伝説

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第7幕 野菜泥棒と仏様

息も絶え絶えに逃げる男が一人。男は野菜を盗んだことがばれ、鍬をもった農民に追いかけられていた。

「どうか、逃がしてください。お願いします。」

「ふざけるな。こっちも生き死にがかかってんだ。」

野菜を盗んだ男は捕まれば無事では済まないと懸命に逃げる。農民も生活がある、年貢がある。困窮した生活の中でなんとか食い繋いでいるなかで一つでも食料を失うわけにはいかない。絶対に捕まえてやる、と追いかける。しかし男も捕まるわけにはいかない。自分の家族を食わせるため、盗んででも食料を調達しなければいけない。故にただひたすらに逃げる。農民は男を追いながら想う。酷く痩せ細ったこの男は自分のためか、それとも家族のためか盗むしか無かったのだろうと。しかし同情はしても盗まれるわけにはいかない。と必死に追いかける。野菜を盗んだ男も追われながらに想う。本当に申し訳ない。申し訳ない。あなた様も生きるのに必死、この野菜が無くなるとさぞ困ることだろう。しかし儂もこれがなければ明日には妻が子が死んでしまうかもしれない。もう5日も何も食べさせてやれていない。決して捕まるわけにはいかない。これを届けなければ。

盗む方にも盗まれる方にも決して譲れないものがある。お互いの姿を見ればお互いが困窮しているのはわかる。

仏様、どうか助けてくだされ。せめてこの野菜だけでも届けさせてくだされ。
男は心の中で強く願った。逃げながら何度も何度も

しかし何も変わらない。仏は何もしない。男がいくら祈ろうが何も変わらない。それが仏。

そしてとうとう力尽き、野菜泥棒は農民に捕まってしまった。農民も同情はするがまた来られては困ると心を鬼にし、鍬で泥棒の右手の指を数本叩き切った。男はあまりの痛さにのたうち回ったがしばらくして、叩き切られた指を抑えながら農民にせめて一つだけでもと地面に頭を擦り付けた。農民も指を叩き切ったことに罪悪感を覚え、一つだけならと野菜を恵んでやり、その場を後にした。
男はありがとうございます。ありがとうございます。と何度も涙を流しながらに感謝を伝え帰路についた。しかし、食事も満足に食べておらず、血も大量に流したことからしばらくして気絶するようにその場で倒れてしまった。

どれだけ倒れていたのかわからない。どれだけ時間を無駄にしたのかわからない。早く帰らなければ。そう思いすぐに家族の元へ向かう。
仏様、どうか家族が無事でいてくださるようお願いします。何度も祈りながら帰路についた。
が、間に合わなかった。長い間食事を口にすることができず、雨水を飲むしかなかった男の家族たちは、腹を下し熱を出し、食べるものもなく死んでしまっていた。

事実を受け入れることができずその場でうなだれるように倒れ込む男。そして何度も何度も助けを乞うた仏を想う。
なにが仏、何が仏か。仏はおらん。おるんならこんなことにはならんじゃろうが。儂はなんのために指まで失って頭を擦り付けて野菜をもろうてきたんじゃ。仏なんぞクソの役にも立たん。苦しんでいる儂らをみて愉しいか。あんまりじゃろうが。
男は家族を失った憎しみで仏を恨んだ。

それからのこと、男は目に入る仏に類するすべての偶像の頭を砕き割った。
腹が空き、どれだけ力がなくなろうと死ぬその時までそれをやめなかったという。

時代は流れ現在、首なし地蔵が200体ほどある地域があるそうだ。


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