見出し画像

【ショートショート】顔だけYouTuber

「○○さん、お疲れ様、ありがとうございまーす。」
「わー☆☆さん、お疲れ様、ありがとうございまーす。」
「¥¥さん、お疲れ様、ありがとうございまーす。」
「今日は、私の…」
「♪♪さん、スパチャ!わー!ありがとー」

1

リノは、幼少期から飛び抜けて整った顔立ちをしていた。
その反面、「顔だけ」と言われ続けてきた。

リノはそう言われると、嬉しいのと悔しいのが半分半分の気持ちになった。

悔しいのが半分だったので、勉強を頑張った。
「顔だけ」じゃないことを証明したかった。

現在、彼女は有名私大のK大学に通っている。

学費と生活費はYouTubeだけで優に稼げるようになった。

リノのYouTubeに内容と言えるものは、ほぼない。
持ち前の整った「顔」と「甘い声」で、視聴者のつまらない生活をひたすら「労う」のだ。

あとは、どう言えば「回る」のかを分析する。
どう振る舞えば良いか考え続けて育ったリノにとってそれは「努力」と言えるほどのものでもなかった。

リノには家族はなかった。

気づいたら施設で育てられていた。

だが、施設には齢の近い仲間がたくさんいたし、寂しいという気持ちはあまり感じなかった。

2

「おはよー」

「あ、リノ、おはよー。」

「リノ、YouTube調子いいじゃん」

「お前、「顔だけ」でメッチャ、スパチャ貰いまくって凄かったな。」

「観てたの?観なくていいからそれは。あと顔だけじゃないし。結構色々考えてやってるし」

「いや、「顔だけ」じゃん」

「やめろよ、言い過ぎだって」

3

リノは「リクト」という同級生が気になっていた。

友だちからは、「リクト」はやめた方が良い。と言われた。

彼は「サイコパス」という事だった。

サイコパスかどうかはよく分からないが、
「リクト」はなんの前触れもなく「思ったこと」を言う。
リノは、「思ったこと」をそのまま言えない。「私もそんな風に生きてみたい」と思った。
リノは彼のそんな所に惹かれたのだ。

「リノ、お前って頭良いと思うよ、俺」

「リノ、お前の顔は最高だよ」

4

最近、リクトを見かけない。

たまたま取っている授業が違うだけなのかな?

避けられているのかな?

リクトに限ってそれはないか。

5

「(リクトだ。)」

「久しぶりー。リクトー。元気だった?」

「あー。えっと、リノ。」

「どうしたの?」

「いや、結局リノって「顔だけ」だなって。」

「え?(これが、サイコパスってこと?!)」

「「顔だけ」っていうか、「頭だけ」だし。
結局。
体は無いんだよなーって。」

「リクト、「思ったこと」言い過ぎ!」

6

リノの首から下は機械だ。

リノは醜い機械の体を脳からの電気信号により操って、
家に帰った。

そして、
いつも通りにYouTuberとして、電波を発信し、受信先のつまらない日々を送る人たちの生活を労った。

今日は
ほんの少しだけ、心を込めて労った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?