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【ショートショート】太陽

「太陽」は暗い男だ。

どれくらい暗いかと言うと、
誰も彼の声を聞いたことがないし、いつも無表情だ。
だからと言って「マイナスのオーラ」を発している訳でもない。
言うならば無機質な暗黒。

つまり、彼は「本物の太陽」とは真反対の男なのだ。



「野球部のポジティブモンスター」高岸が太陽に話しかける。

「やれば出来る!」
「太陽!なんて素晴らしい名前なんだ!皆んなを照らす明るい名前です!最高だ!」

高岸の顔が曇ってゆく。
こんな表情は見たことがない。
「今日はちょっと疲れました…。」

サッカー部の尾形も話しかける。

「サンキュー!」
「いやいやいや!ホントにねぇ!太陽!俺たちで見せてやろうぜ!最高のパフォーマンス!」

尾形もか。
いつも大量に出ている汗がすっかり引いている。

サッカー部の大御所、高文パイセンが引き笑いで躍り出てくる。
「尾形〜アカンねんてホンマ〜」
「お、太陽ゆうんかお前。陰気くさいな自分!
太陽に向かって走れよお前はホンマ〜」

まさか?!
あの高文パイセンも?
「なんや今日はアカンな…」
カッスカスの声を絞り出している。
まるで干しサンマのようになってしまった。

熱力学の授業の時間だ。

ベテラン名誉教授が入って来る。

「えー今日は…
…え?
き、君は何だ?
なぜだ?
ま、周りにいる人は離れなさい!
非常に危険だ!」

心なしか周りにいる人は元気がないように見える。

「先生。太陽は話さないだけで大丈夫です。」
誰かが言った。

「し…しかし彼は、「絶対零度」じゃないか!」

「絶対零度。」

「私は、熱力学ばかりやって来たから分かる。
彼にはエネルギーが「ない」。
あらゆる物体は「熱」を持っている。
通常「熱」は高温から低温に流れ、いずれお互いに近い温度になるものだ。
人間も同じで、明るい人から暗い人に元気が流れて、お互いに近い温度になるものだ。
それが「馴染む」ということだ。
あらゆる物事にその大原則は働いている。
ところがどうだ。
彼は全くの異質だ。
いくらエネルギーを受けてもなんの反応もない。
分子も原子も動かない「絶対零度」を保っている…!」

太陽は自分の話をまるで他人事のような顔で「聴講」している。

かんかん照りの夏。
今年は特に暑い気がする。

その間も、「太陽」が受け取った熱は「本物の太陽」に送られていた。

(終わり)

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