【随想】乙
「乙」と聞いてどう感じるだろうか。
私は、甲乙丙丁の乙を思い浮かべる。
もしかしたら、占いが好きな人は「きのと」と読むのかも知れない。
江戸っ子は「乙だねぇ」の乙か。
若い人は「お疲れ様」の乙かも知れない。
私は今さらながら、山田芳裕さんのマンガ「へうげもの」を読んでいる。
戦国時代の大名で千利休の弟子でもある古田織部が主人公の話である。
つまり、「乙だねぇ」の話になるのだが、
織部は利休が創り上げた「わび」の思想を乗り越え、何とかして「数奇」(茶の湯)の頂きを目指そうとする。
そして、出来上がった渾身の茶碗を利休に見せたところ、
「これは甲ではなく、乙だ」と評されてしまう。
落ち込んだ織部だが、
世間には乙の茶碗が評価を得ていることに気づく。
そこで「乙もよいではないか」と考えるようになる。
そして、間の抜けた、思わず笑える、という方向に突き進んでいく。
戦国時代に武士でありながらこんなテーマで生き抜いた人間もいたのか、と驚いた。
(マンガなので誇張も大分あるのだが)
織田、豊臣、徳川と仕えて、江戸時代まで生き抜いた「武士」である。
いわゆる「勝ち組」と言っていいだろう。
結局、最後に笑うのは、忠誠心よりも、自分のやりたいことを「楽しんだもの」が生き抜いたことになる。
真面目が好きな人は真面目に生きるのも悪くないが、
肩の力を抜いて、
やりたいことに燃えて、
一笑の精神を忘れずに、
そんなふうに「乙」に生きていたい。と思った。